気候変動対応目標と目標達成に向けた取り組み
当社は、パリ協定目標に則したネットゼロカーボン社会の実現に貢献すべく、3つの目標を定めました。
一つ目は、パリ協定目標に則し、2050年までに排出量ネットゼロとする目標を設定しました。二つ目は、そのプロセスとして、2030年時点で排出原単位を30% 以上低減(2019年比)します。同目標の対象は当社の事業プロセスからの排出量であるScope1+2としています。三つ目は、販売した石油ガスの 燃焼によるScope3排出量については、バリューチェーン全体の課題として、関連する全てのステークホルダーと協調してその低減に取り組みます。なお、2030年目標の達成に向け、中期経営計画2022-2024では、排出原単位を3年間で10%(4.1kg-CO2e/boe)以上低減することを事業目標として加えています。本計画1年目にあたる2022年度の実績は、28kg-CO2e/boeとなりました。
また、ネットゼロ目標達成に向けた具体的な対策として、上流事業のクリーン化やネットゼロ5分野の推進に加えて、メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%)で維持すること、通常操業時のゼロフレアなどを挙げています。これらの取組みの詳細は、長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)や「気候変動対応の基本方針」に基づく「INPEXの取組み」に記載しています。
項目 |
2020年1-12月 |
2021年1-12月 |
2022年1-12月 |
---|---|---|---|
Scope11(千トン-CO2e) |
7,328 |
7,302 |
6,839 |
Scope21(千トン-CO2e) |
148 |
136 |
69 |
排出原単位2(kg-CO2e/boe) |
35 |
33 |
28 |
メタン排出原単位3(%) |
0.07 |
0.04 |
0.05 |
事業のクリーン化
2022年度の当社オペレーショナルコントロール1の温室効果ガス排出量は、約638万トン-CO2eとなり、 2021年(1~12月)と比較すると約32万トン-CO2e減少しました。2019年度より通年操業となりましたイクシスLNGプロジェクトの操業が安定したことによる、ガス処理プロセスの途中で生じる低圧ガスのフレア2の減少が主な要因です。
1 オペレーショナルコントロール:本社、技術研究所、海外事務所、国内及び海外のオペレーション事業体(当社がオペレーターとして操業を行う拠点)を対象範囲とする
2 フレア:原油採掘施設、ガス処理施設などで発生する余剰の炭化水素ガスをそのまま放散せず焼却すること
温室効果ガス排出量データの集計・分析・報告
各事業場の温室効果ガス排出量については、現地国の制度、並びに国際的なガイドラインに準じた手順を定め、定期的に集計、分析、報告しています。また、温室効果ガス排出量に対しては報告内容の信頼性確保のために第三者保証を受けています。
温室効果ガス排出量削減の取組み
国内外オペレータープロジェクトでは、各事業場の状況に応じて温室効果ガス排出量削減のための省エネ活動の実施、通常操業時の継続的なフレア・ベントの回避、メタン逸散量の低減などの取組みを実施しています。
また、国内の探鉱・開発事業では、国内の温室効果ガス排出削減の取組みとして日本経済団体連合会が自主的に行っている「カーボンニュートラル行動計画」に石油鉱業連盟を通じて参加しています。2021年度には、2030年度排出量削減目標の見直しを実施しました。
フレア削減の取組み
当社は2030年までにオペレータープロジェクトにおける通常操業時のゼロフレア達成を目標に掲げています。この目標達成に向けて、2021年度より、社内関係部署間で連携してフレア削減対策の検討を実施しています。
フレア削減対策の研究・開発の一環として日本国内ではメタン分解技術を応用し、フレアガス中の炭素分を固定化し、大気中へのCO2排出を削減するための取組みの導入について検討を進めています。(下図参照)
メタン逸散量低減の取組み
当社はメタン排出原単位を現状の低いレベル(約0.1%)で維持することを目標に掲げています。2022年度のメタン排出原単位は0.05となっており、目標値以下の水準を維持しています。
メタン排出量の管理及び低減のため、メタン逸散量に関し、国際的な手法に基づく集計・報告を2018年度から開始しました。国内プロジェクトにおいては、2019年度に設備・機器からのメタン逸散の点検対象箇所の調査・特定作業を実施し、集計・報告体制を確立しました。また、2020年度にはレーザーメタン検知器を導入し、ほぼ全対象箇所において点検を実施し、逸散が確認された箇所は直ちに対策を行いました。
海外プロジェクトでは、2022年度にイクシスLNGプロジェクトのCPF(沖合生産・処理施設)およびFPSO(沖合生産・貯油出荷施設)において、赤外線カメラを利用したLDAR(Leak Detection And Repair)プログラムを実施し、メタン逸散の点検を実施しました。
その他の海外プロジェクトにおいても同様の対策を検討しており、継続的にメタン逸散量削減に向けた取組みを進めていきます。
また、メタンの排出管理及び測定・報告・検証(Measurement Reporting Verification)の手法に関し、関連する国際的なイニシアティブなどの動向も踏まえ、当社のメタン排出管理の強化に継続的に取り組みます。
森林保全によるCO2吸収の推進
ネットゼロ5分野としての森林保全
2022年2月に発表した「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」では、2050年ネットゼロカーボン社会に向け、当社が注力すべき事業分野(ネットゼロ5分野)の一つとして森林保全の推進を位置付けています。
気候変動対応における森林保全・植林の重要性
昨今、気候変動への対応においてNature Based Solutions(NbS:自然に根ざした解決策)への注目が高まっており、世界各地で操業を行う当社においても責任ある企業として取り組むべき領域と認識しています。
とりわけ森林保全・植林プロジェクトは、森林減少・劣化抑制によるCO2 排出削減や植林によるCO2吸収量の増大だけではなく、貴重な生物多様性や水源の保全、土壌浸食の低減、地域住民の貧困緩和・生計向上など、相乗効果である“Co-benefits”が期待でき、国連が提唱するSDGs へ広く貢献することができます。
当社における森林保全・植林の取組み
当社においては、ミティゲーション・ヒエラルキー3の考え方に則り、石油・天然ガス分野のクリーン化、天然ガスシフト、CCUS、再生可能エネルギーの導入などを通じたネットゼロ目標への取組みを補完するものとして、森林保全・植林によるCO2の吸収を重視しています。
オペレーターとして操業する豪州のイクシスLNGプロジェクトでは、これまでユーカリの植林・管理及びサバンナ火災プログラムを通じ森林によるCO2吸収を目的とした事業の経験を積んできました。2022年3月にはオーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空とともにカーボンファーミングおよびバイオマス燃料事業協⼒に係る協業を開始しています。また、InfiniteEARTH社がインドネシアで運営するRimba Raya Biodiversity Reserve REDD+プロジェクトについて、2021年に長期のカーボンクレジット取得契約を結ぶとともに、プロジェクトの支援に取り組んでいます。
3 ミティゲーション・ヒエラルキー:環境に対する負の影響に対して、その影響の回避、最小化、復元策が図られた後で、それでも残る影響を補償するために最終的に代償(オフセット)の手段が検討されるべき、という考え方。
カーボンクレジット調達・活用に対するINPEXのアプローチ
当社のGHG 排出量のカーボンオフセットについては、信頼性の高い国内外の認証制度に基づき森林保全事業への支援や参画を通じ得られたカーボンクレジットを活用しています。また、国内外のさまざまなイニシアティブなどクレジットに関する最新動向をフォローするとともに、プロジェクトの中長期的なパフォーマンスの評価を通じて、高品質のクレジット調達に努めています。
国内外で信頼性の高い認証制度によるクレジット
当社では以下の認証制度に基づくプロジェクトのカーボンクレジットを選定し、活用しています。
高品質のクレジット調達に向けた取組み
(1)プロジェクト評価を実施
高品質のカーボンクレジットを選定すべく、当社ではクレジット調達前にプロジェクト評価を実施した上で、最終的な選定を行っています。具体的には、永続性4の観点で懸念すべき事項がないこと、地域住民含むステークホルダーとの間で懸念すべき事項がないこと、土地所有・使用権が明確かつクレジット期間以上にわたって確保されていることなどの条件確認により、優良なプロジェクトからのクレジット調達を進めています。また、内部評価に加えてCalyx Global社などの外部評価企業によるクレジット評価結果も踏まえて総合的に判断しています。
(2)“Co-Benefits”を有するプロジェクトを優先
CO2排出削減やCO2吸収効果に加え国連が提唱するSDGsに広く貢献する“Co-Benefits”を有するプロジェクトを優先的に選定しています。
4 永続性:CO2の排出削減量・吸収量が大気に放出されることなく恒久的に固定される必要性を示す概念
SD VISta: Sustainable Development Verified Impact Standard:プロジェクトのSDGsへの貢献を認証する基準。Rimba Raya Biodiversity Reserve REDD+プロジェクトは17項目全てで取得
サプライチェーンでの排出削減の取組み— Scope3削減に向けて
カーボンニュートラル商品の販売促進
当社は現在お客さまに向け「カーボンニュートラル商品」の販売を進めており、これまでの販売を通じた温室効果ガス削減量はCO2換算で200万トンを超えています。「カーボンニュートラル商品」は、当社が販売するLNG・天然ガス・LPGなどの商品において、採掘から輸送、燃焼に至るまでのライフサイクルで発生する温室効果ガスをその排出量に見合う量のカーボンクレジットで相殺(カーボンオフセット)することで、ネットゼロとみなされる商品のことです。当社はこのようなカーボンニュートラル商品の提供を通じ、お客さまと共にサプライチェーンにおける低炭素化に取り組んでいきます。
請負先及び資材調達先での排出削減の取組み
請負先(コントラクター)及び資材調達先に対しては、温室効果ガスの排出削減に向け働きかけています。2022年7月に制定したサプライヤー行動規範において、当社がサプライヤーへ求める事項を定めており、温室効果ガス排出量の削減を含む環境に配慮した自主的な取組みを項目の一つとしております。また、当社の「環境安全方針」においては「温室効果ガス排出管理プロセスに基づき、温室効果ガス排出の削減に努めること」を宣言しています。請負契約及び資材調達契約に「環境安全方針」の遵守を求める条項を盛り込むことで、サプライチェーンでの排出削減の取組みを推進しています。
当社の低炭素社会シナリオ
2050年5までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社は国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)の公表政策シナリオ(IEA-STEPS)、発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)及び2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオ及び技術進展シナリオを参照しています。
当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2022年2月に「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」を策定しました。今後もシナリオのレビューを用いながら事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
5 IEAのWEOでは2050年までの国際エネルギー情勢について展望している
IEA World Energy Outlook(WEO) |
公表政策シナリオ(IEA-STEPS) |
---|---|
発表済み誓約シナリオ(IEA-APS) |
|
2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE) |
|
日本エネルギー経済研究所 |
レファレンスシナリオ |
技術進展シナリオ |
気候変動リスクの財務的評価
当社は以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。一つ目は、インターナルカーボンプライスによる当社の各プロジェクトの経済性評価です。ベースケースとして適用した経済性評価を実施しています。これは、世界では既に130か国あまりが2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと思われるためです。当社ではIEA WEOの公表政策シナリオ(IEA-STEPS)のカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年レビューしています。2023年からは、IEA WEOのカーボンプライス見通しを反映し、所在国にカーボンプライス制度が存在し、政策コスト見通しを参照できる場合は当該コスト見通しを参照し、カーボンプライス制度が存在しない場合は、 STEPSのEU価格(2030年US$90/tCO2e、2040年US$98/tCO2e、2050年US$113/tCO2e)に連動した変動価格を参照することに見直します。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的評価です。IEA WEOの発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)及び2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)の油価とカーボンプライスが、当社ポートフォリオに与える市場リスクの財務的評価です。IEA WEOのAPS及びNZEが提示している油価とカーボンプライスの推移を、プロジェクトのNPV 計算に適用し、ベースケース適用のNPVからの変化率を、当社の事業ポートフォリオに対する影響として算出します。前提の置き方など難しい点があるものの当社の事業ポートフォリオの財務的評価の一つの手法として実施しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
|
インターナルカーボンプライスによる評価 |
各種シナリオによる評価 |
---|---|---|
財務的評価手法 |
カーボンプライス政策が、プロジェクトに与える影響の財務的評価 |
下記シナリオによる油価及びカーボンプライスによる財務的評価
|
指標 |
インターナルカーボンプライス適用によるIRR(ベースケース) |
上記指標価格適用によるNPV変化率(感応度分析) |
取組み状況 |
2021年度よりベースケース化 |
2018年より実施しており、22年度よりNZEシナリオを追加 |