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2023

Sustainability Report 2022 (for FY2021)

Sustainability Report 2022 (for FY2021)

TCFD提言への持続的な取組み

気候変動関連のガバナンス体制

当社は、気候変動対応に関し、取締役会による監督体制の維持、関与の拡大を図っています。具体的には、気候変動対応の基本方針の決定を取締役会での決議事項としています。当社は、2021年1月、2050年自社排出ネットゼロ(Scope1+2)目標を柱とする気候変動対応目標を定めました。また、2022年2月に「⻑期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」を発表し、2050年ネットゼロに向けての道筋としてネットゼロ5分野の各事業を加速度的に拡大していくことを打ち出しました。これに伴い「気候変動対応の基本方針」7を2022年3月に改定し対外開示しました。また、同基本方針に基づく気候変動対応の推進状況を具体的に紹介する「INPEXの取組み」7を原則として毎年1回アップデートし、対外開示しています。

7 「気候変動対応の基本方針」及び「INPEX の取組み」

気候変動対応と役員報酬との連動

当社の代表取締役を始め全ての取締役(社外取締役を除く)の報酬においては、2022年に報酬制度を改定し、株式報酬のKPIとして、「⻑期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」の管理指標となっている温室効果ガス排出原単位を採用しています。また、担当役員においては、気候変動対応目標、リスク管理や情報開示などを含め気候変動対応の推進に関し毎年定性目標を設定しており、その達成度の評価が報酬に反映されます。

気候変動関連のガバナンス体制図

役割

  1. 気候変動対応の基本方針の決定、気候変動対応の監督
  2. 気候変動関連リスク及び機会の評価の決定気候変動対応に係る重要な目標の決定
  3. サステナビリティ推進委員会の諮問機関で30名ほどの組織横断的なメンバーで構成される気候変動関連のリスクや機会の評価を実施
  4. 環境安全方針に基づく温室効果ガス排出量の集計・分析・報告

気候変動関連リスク及び機会の評価・管理

当社は、気候変動関連リスク及び機会の評価・管理を、原則として年次サイクルで実施しています。全社的な気候変動対応の推進は、経営企画本部経営企画ユニット内の気候変動対応推進グループが担当しています。

気候変動関連リスクに関しては、各部門を代表する30名ほどのメンバーで構成される「気候変動対応推進ワーキンググループ(WG)」が評価を実施して、予防及び低減措置案を策定しています。予防及び低減措置案は、検討課題としてサステナビリティ推進委員会で審議され、年度計画に反映されます。

なお、リスク評価のプロセスは、国際的なリスク管理基準であるISO31000(2009)(図A)の手順に従っています。外部要因・内部要因をアップデートし、当社の状況をWGメンバーで共有した上で、リスクを特定し、その原因、予防措置、低減措置、及び残存リスクを分析(図B)し、その残存リスクを当社で作成した「TCFD提言対応リスク評価マトリクス」(図C)を使用して評価しています。

図A: ISO31000の手順

図B:リスク分析の手順

図C:TCFD 提言対応リスク評価マトリクス

2021年度気候変動関連リスク及び機会の評価ワークショップ

気候変動関連機会については、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」に基づいて、水素・CCUS事業開発本部や再生可能エネルギー・新分野事業本部などを中心として全社的に取り組んでいきます。

また、「気候変動対応の基本方針」に基づく「INPEXの取組み」において、ネットゼロ5分野、上流事業のクリーン化と天然ガスシフトに関する取組みを取りまとめており、サステナビリティ推進委員会で審議され、社長決裁を経た上で経営会議・取締役会に報告する仕組みとなっています。

図D: 気候変動関連リスク及び機会の評価・管理のプロセス

2022年度の気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況

移行リスク

リスク区分

リスクの評価対象

リスク発生時期見込

対策の状況

政策・法規制
(Scope1排出量関連 )

カーボンプライス制度の導入・強化によりコストが増加するリスク

短期

中期

  • カーボンプライス政策動向のモニタリング
  • インターナルカーボンプライスを US$40/tCO2-e から US$65/tCO2-e へ
    引き上げ、ベースケース化によるプロジェクトの経済性評価の実施

技術及び市場
(石油ガス需要・価格の低下 )

再生可能エネルギー・EV・電池のコスト低下、あるいは市場の低炭素エネルギー選好により、石油ガスの需要低減または価格低下が進行するリスク

中期

長期

  • シナリオを活用した技術・市場動向のモニタリング
  • IEA WEO Sustainable Development Scenario(SDS )の油価・カーボンプライス適用によるポートフォリオの財務的評価

レピュテーション
(Scope1排出量関連

Scope1排出量がステークホルダーから懸念されるリスク

短期

  • 2050年ネットゼロ、2030年排出量原単位30%以上低減目標の設定
  • 2030年頃にCO2圧入量年間250万トン以上達成を目標とし、技術開発・ 事業化を推進する
  • メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量 )を現状の低いレベル(約0.1% )で維持
  • 2030年までに通常操業時ゼロフレア

レピュテーション
(Scope3排出量関連 )

Scope3排出量が注目され石油・ガス企業のイメージが悪化するリスク

短期

中期

  • Scope3排出量の低減に向けたステークホルダーとのエンゲージメント
  • 天然ガスの開発促進・普及拡大
  • カーボンニュートラルLNGの販売

資金調達

投資家や金融機関から情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク

短期

中期

  • TCFD提言に沿った情報開示の推進

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

物理的リスク

リスク区分

リスクの評価対象

リスク発生時期見込

対策の状況

急性

極端な気象現象が、操業施設に悪影響を及ぼすリスク

短期

中期

  • 定期的に物理的リスク評価を実施

慢性

長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇が操業施設に悪影響を及ぼすリスク

中期

長期

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

2022年度の気候変動関連機会の評価対象、実現時期見込及び進捗状況

資源の効率に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

生産プロセスにおける
エネルギー効率の改善

短期

  • エネルギー効率の高いプラント設計と綿密な設備保全計画及び日常的な保全活動

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

エネルギー源に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用

短期

中期

  • 新規に取得したノルウェー案件で浮体式洋上風力発電による海上生産施設へのクリーン電力の供給などにより、クリーンエネルギー技術の知見を深める

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

製品及びサービスに関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

CCUSの推進

中期

  • 2030年頃にCO2圧入量年間250万トン以上達成を目標とする
  • 南阿賀及びアブダビなどにおけるCO2EOR実証
  • イクシスLNGプロジェクトでのCCS導入検討

水素事業の展開

中期

長期

  • 新潟県柏崎市でブルー水素・アンモニア製造実証プラントを建設し、2024年中に運転開始を目指す
  • 2030年頃までに年間10万トン以上の水素・アンモニアの生産・供給を目指す
  • アブダビでのクリーン・アンモニア事業の共同調査実施

再生可能エネルギー事業の拡大

短期

中期

  • 洋上風力・地熱発電事業を中心に、1-2GW規模の設備容量確保を目標
  • オランダ及び長崎県五島市沖での洋上風力発電事業の参入
  • インドネシアでのムアララボ地熱発電事業の参入

カーボンリサイクルの
推進

中期

長期

  • 新潟県長岡市に400Nm3/hのメタネーションプラントを建設し、2025年に同施設で実証実験を実施予定
  • オーストラリア ダーウィンに人工光合成パネルを設置、今後実用化を検討

新分野事業の開拓

中期

長期

  • ドローン活用、メタン直接分解、DAC、ブルーカーボンなどの検討

カーボンニュートラル商品の販売促進

短期

  • カーボンニュートラル商品販売の更なる拡充、カーボンクレジットポートフォリオの拡充

森林保全の推進

中期

  • Rimba Raya Biodiversity Reserve REDD+プロジェクトなどの優良な森林保全事業から、年間200万トン程度のクレジットを安定的に確保することを目指す

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

Enhanced Oil Recovery:石油増進回収。本レポートではEnhanced Gas Recovery(ガス増進回収 )を含む

市場に関する機会

機会評価対象

時期

機会の長期戦略と進捗状況

エネルギー供給の多様化

中期

  • LNGバンカリング・受入基地・小口配給・発電など中下流事業への投資を通じたアジアのガスバリューチェーンの確立

よりクリーンな
天然ガスの開発

中期

長期

  • イクシスLNGプロジェクトでの生産能力引上げ、東南アジアでの事業機会の追及、インドネシアのアバディLNGプロジェクトでのCCSの導入などを含めプロジェクトを推進

短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超

物理的リスク評価プロセスの整備

2018年に物理的リスクについての評価プロセスを検討し、施設が所在するオペレーター案件とノンオペレーター案件の両方を対象とするロードマップを設定しました。2019年は当社の主要オペレーター施設を対象とした物理的リスク評価を試行しました。まず、日本の新潟県とオーストラリアのダーウィンを対象に、最も温暖化が進行するIPCC第5次評価報告書のRCP8.5シナリオにおける21世紀半ばの平均気温上昇、海面上昇などの指標を公表外部データから特定しました。同データを利用し、国内及びオーストラリアの主要施設のリスクの特定を行いました。2021年は当社がノンオペレーターとして関与する主要11案件に関して、物理的リスク評価の実施状況を確認し、ほぼ全施設の評価の試行を終えました。また、IPCC第6次評価報告書(第1作業部会)が発行されたことにより、第5次評価報告書とのギャップ分析を実施していきます。

これらの評価を踏まえて慢性リスクに関しては、イクシスを始め沿岸部に立地する主要施設は、海水位上昇などを織り込んで設計しているため、洪水リスクは低いと評価しています。また、今後の気温上昇により運転効率の低下などの影響が考えられますが、適宜施設の改善などを行っているため、2030年までに大きな損害がでないと評価しています。

急性リスクに関しては、主要オペレーター案件で適切な計画、操業、訓練、外部情報活用などにより、台風やサイクロンなどの自然災害に十分な備えを持って取り組んでいます。加えて、当社の主要施設は、自然災害の財物保険の手配により、急性リスクによる財務的損失の軽減を図っています。また、国内での自然災害については、国レベルでインフラ整備などの適応が進められる中、当社でも自然災害の対応として、パイプラインのリスク評価、対応策の検討などを実施しました。これらの検討結果を踏まえて、自然災害リスクの高い部分において引替え工事を実施しました。

今後も物理的リスクに関しては、組織横断的なチームで定期的に評価の実施、適切な開示を進めていきます。

物理的リスク評価のロードマップ

気候変動リスクの財務的評価

当社は以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。一つ目は、インターナルカーボンプライスによる当社の各プロジェクトの経済性評価です。ベースケースとして適用した経済性評価を実施しています。これは、世界では既に130か国あまりが2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと思われるためです。当社ではIEA WEOの公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario:STEPS)のカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年レビューしています。2022年には、IEA WEOのカーボンプライス見通しを反映し、インターナルカーボンプライスをUS$40/tCO2-eからUS$65/tCO2-e に見直しました。

二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的評価です。IEA WEOのSustainable Development Scenario(SDS:パリ協定目標と整合的なシナリオ)の油価とカーボンプライスが、当社ポートフォリオに与える市場リスクの財務的評価です。IEA WEOのSDSが提示している油価とカーボンプライスの推移を、プロジェクトのNPV計算に適用し、ベースケース適用のNPVからの変化率を、当社の事業ポートフォリオに対する影響として算出します。前提の置き方など難しい点があるものの当社の事業ポートフォリオの財務的評価の一つの手法として実施しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。

財務的評価への2つのアプローチ

 

インターナルカーボンプライスによる評価

SDSシナリオによる評価

財務的
評価手法

カーボンプライス政策が、プロジェクトに与える影響の財務的評価

IEA WEO Sustainable Development Scenario(SDS )の油価とカーボンプライス適用による
ポートフォリオの財務的評価

指標

インターナルカーボンプライス適用に
よるIRR(ベースケース )

IEA WEO SDSの指標価格適用に
よるNPV変化率(感応度分析 )

取組み
状況

2021年度よりベースケース化

2018年度より実施

TCFD提言に沿った開示内容及び開示箇所

TCFD提言の概要

当社の開示内容

ガバナンス

気候変動関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する

1

気候変動関連のリスク及び機会についての、取締役会による監督体制を説明する

2

気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する

戦略

気候変動関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重要な場合は、開示する

1

組織が識別した、短期・中期・長期の気候変動関連のリスク及び機会を説明する

2

気候変動関連のリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する

3

2°C以下シナリオを含む、さまざまな気候変動関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンス(対応力 )について説明する

リスク管理

気候変動関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する

1

組織が気候変動関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する

2

組織が気候変動関連リスクを管理するプロセスを説明する

3

組織が気候変動関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する

指標と目標

気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する

1

組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候変動関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する

2

Scope1、Scope2及び当てはまる場合はScope3の温室効果ガス排出量と、関連リスクについて開示する

3

組織が気候変動関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する