生物多様性の保全
生物多様性保全は重要な地球環境課題の一つであるとの認識の下、当社の重要課題の一つに位置づけています。係る状況下、当社は、2022年12月に生物多様性保全に関する基本的な考え方とコミットメントを取締役会の決議により制定し、公表しました。
生物多様性保全に係る基本的な考え方及びコミットメント
基本的な考え方
当社事業における生物多様性の「リスクと機会」を特定し、ミティゲーションヒエラルキー1に基づく生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組みを積極的に推進していく。
コミットメント
- 生物多様性に関する「リスクと機会」の特定
- 当社事業における生物多様性の「リスクと機会」を特定し、持続可能な利用に向けた取組みを推進する。
- 生物多様性保全活動に係る情報開示を推進する。
- 事業の実施除外エリアの設定
- UNESCO世界自然遺産の区域内において、事業を実施しない。
- ネットポジティブアプローチの推進
- 重要な生息地(Critical Habitat)2で実施される事業においては、ネットポジティブインパクトの創出を含む生物多様性に関する行動計画(BAP: Biodiversity Action Plan)を策定し、実行する。
- 生物多様性保全活動の促進
- 新規事業においては、生物多様性への影響を特定し、ミティゲーションヒエラルキーに基づき、影響の回避・低減策を策定し、実行する。
- 既存事業による生物多様性への負の影響をできる限り低減し、生物多様性への正の影響を創出する取組みを促進する。
1 開発によって生じる影響を回避、低減・最小化した上で、それでも残る影響に対し代償措置を講じるという優先順位。
2 IFC Performance Standard 6で定義付けされている生物多様性の価値が高い地域
事業活動による生物多様性への影響の種類や程度は、各事業の規模、内容、及び立地環境等により異なることから、事業ごとに求められる生物多様性保全の取組みも異なります。そのため、事業の実施にあたっては、当該エリアにおける生物多様性の重要性や事業が生物多様性に対しもたらすリスクや影響を評価し、特に重要性が高い環境脆弱域(保護区、貴重種の重要な生息地、森林、マングローブ、サンゴ礁、湿地や干潟など)については、ミティゲーション・ヒエラルキー3に基づき、事業がもたらすリスク・影響の回避、低減、補填を計画し、生物多様性保全に取組んでいます。
3 開発によって生じる生態系への影響を回避、最小化した上で、それでも残る影響を補償するために代替措置を講じるという優先順位
生物多様性に関する「リスクと機会」の特定
国内事業では、「TNFDフレームワーク4」(ベータ版)の「LEAPアプローチ」に沿って、国内事業場周辺の自然関連情報(生態系との接点、絶滅危惧種、水ストレス等)の整理を進めています。今後は、情報整理の結果を活用し、国内の事業活動と自然との関係性を影響と依存という観点で評価し、当社における自然関連のリスクと機会について検討していく予定です。
4 TNFD(Task force on Nature-related Financial Disclosures;自然関連財務情報開示タスクフォース)が策定している、自然関連リスクと機会の評価・情報開示フレームワーク。本フレームワークでは、自然関連のリスクと機会を体系的に評価するプロセスである「LEAPアプローチ」が提案されている。自然との接点を発見する(Locate)、依存関係と影響を診断する(Evaluate)、リスクと機会を評価する(Assess)、自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する(Prepare)の4フェーズから構成される。
保護区への影響の回避、低減、補填
当社では、2019年度より、「保護地域に関する世界データベース(WDPA)」5の保護区情報やIUCN レッドリストカテゴリーに該当する動植物種の情報を地理情報システム(GIS)に取りまとめ、以下の目的のために、情報を毎年更新しています。
- 保護区内における当社オペレータープロジェクトの操業の有無の確認
- 新規プロジェクトにおける保護区への影響の初期スクリーニング
- 既存プロジェクトにおける生物多様性保全活動の計画・立案
また、2022年12月に策定した「生物多様性保全に関する基本的な考え方及びコミットメント」では、事業の実施除外エリア(UNESCO世界自然遺産の区域内)において事業を実施しないことをコミットしています。
2022年12月末時点で、当社オペレータープロジェクトの実施エリアが当社の定める実施除外エリアに該当しないことを確認しています。
5 UNEP(国連環境計画)とIUCN(国際自然保護連合)が作成している保護区情報のデータベース
ネットポジティブアプローチの推進
WBCSDが2021年に公表した実務者向けガイダンス”WBCSD practitioner’s guide: what does nature-positive mean for business?”を活用し、当社の自然に関する取組みの現状把握と、今後必要なアクションの特定を実施しています。その結果、WBCSDのガイダンスに準じて、当社が特に対応できているポイントとしては、生物多様性や水に関するコミットメントの策定・開示、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づく生物多様性への影響の回避、低減、補填といった取組みであることが特定されました。今後は、バリューチェーンを考慮した自然関連の影響と依存を考慮し、ネットポジティブに寄与する取組みを実行していきます。
生物多様性保全活動の推進
当社の国内事業及び海外事業では、長年にわたり、生物多様性保全に資する活動を実施していますが、今後は、2022年12月に策定・公表した生物多様性保全に関する基本的な考え方とコミットメントに基づき、全社的な生物多様性保全活動をより一層推進していきます。
海外における生物多様性保全の取組み
イクシスLNGプロジェクトが立地するダーウィン湾の沿岸部には、マングローブ林が形成されており、魚類の繁殖エリアやウミガメの採餌エリアとなっています。この豊かな生物多様性を保全するため、ダーウィン湾における排水水質、海水 水質、マングローブの生育状況、自然植生などの包括的なモニタリングを操業開始後も継続して実施しています。また、北部準州によるジュゴンの生息調査に資金援助するなど、事業周辺の生物多様性保全に貢献する取組みを実施しています。
アブダビ陸上探鉱鉱区(Onshore Block 4 Project) における鳥類調査
当社は、2019年度より、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビの探鉱鉱区Onshore Block 4を取得し、探鉱事業に参画しています。本事業で掘削作業を実施するBalghelam 島及びUmm Al Barak 島(アブダビの北東約20kmに位置)は、渡り鳥が飛来する場所として知られています。Balghelam 島及びUmm Al Barak 島に飛来する鳥類の現況を把握し、影響を受ける鳥類に対する影響緩和策を検討することを目的に、JODCO Exploration Limitedが主体となり、年に複数回、鳥類調査を実施しています。
2020年度、2021年度の調査では、専門家により、2つの島において確認される鳥類の種類、個体数、行動(就塒、給餌、繁殖)がエリアごとに記録され、本事業に伴う渡り鳥への影響と緩和策が検討されました。本調査結果を踏まえ、事業要員や車両の立ち入り区域の制限など(アクセスロードから離れた場所や鳥の就塒場所に行かない)の対策を実施しました。
国内における生物多様性保全の取組み
国内事業場周辺における環境に関する地域特性の把握
国内事業では、事業場周辺の環境に関する地域特性(河川、漁場・養殖場、森林、自然環境保全地域、文化財、天然記念物・絶滅危惧種の生息地など)の把握を目的とした机上調査を2021年度に実施し、調査結果を地理情報システム(GIS)を用いて取り纏めました。これにより、事業場周辺の生態系の把握だけでなく、新規事業の計画段階において、サイト周辺の環境脆弱域の把握にも活用しています。
国内での生物多様性保全活動(「キツネ平どんぐりの森」での取組み)
長岡鉱場に隣接する新潟県長岡市不動沢では、2010年度から新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環で「キツネ平どんぐりの森プロジェクト」を展開しています。当社は、どんぐりの森で以下の取組みを実施しています。
森づくり活動
年に2回(春季・秋季)、地域住民の方々と一緒に森林整備、植樹活動、子ども向けの自然観察会を開催しています。(2020年以降新型コロナ感染症の影響で活動を休止しています。)
2019年生物多様性調査(秋季調査)
2019年秋季(10月~11月)に、どんぐりの森における生物多様性を把握するための簡易調査を実施しました。本調査では、どんぐりの森にセンサーカメラ計6台を設置し、どんぐりの森に生息する生物を撮影しました。
本調査の結果、カモシカを含む哺乳類が数種類観察され、また敷地内及びその周辺において鳥類も複数種類観察されました。
2022年生物多様性調査
2019年に実施した秋季調査の結果を踏まえ、どんぐりの森の生物多様性の現況をより詳細に把握することを目的とした調査を実施しました。本調査は、2022年5月~2022年12月の約8か月間、どんぐりの森にセンサーカメラ計8台を設置し、森に生息する生物を撮影しました。また、現地調査に加えて、文献調査も実施しました。
2022年生物多様性調査の調査結果
本調査の結果、鳥類ではサシバ、哺乳類ではキツネといった生態系の上位種の生息が確認されました。また、1年を通して、どんぐりの森を多様な生物が継続して利用していることが分かりました。これは短期間で造成した環境、森林や草地だけの単一的な環境では得られない結果であり、2010年度から13年間の森づくり活動により、継続して環境の手入れを行った結果、種の多様性及び生態系の多様性が向上したと解釈することができます。また、調査で得られた結果などは今後地域住民の方々へ共有していくことを計画しています。今後も地域住民の方々と共に活動を継続し、どんぐりの森の生物多様性の維持・向上に努めていきます。