TCFD提言への持続的な取組み
気候変動関連のガバナンス体制
当社は、気候変動への対応を重要な経営課題の1つと認識し、取締役会による監督体制の維持、関与の拡大を図っています。具体的には、気候変動対応の基本方針の決定を取締役会での決議事項としているほか、気候変動関連リスクと機会の評価やネットゼロ5分野の進捗を報告しています。2023年には、ネットゼロ5分野を含む気候変動対応関連の議案について、全16回開催した取締役会のうち14回で議論され、3件の決議事項と18件の審議・報告事項がありました。また、当社では、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会を設置しており、その諮問機関である気候変動対応推進ワーキンググループで気候変動関連のリスクや機会の評価を実施しています。同ワーキンググループでの評価や検討課題は、サステナビリティ委員会で審議・報告後、社長の承認を経て、経営会議及び取締役会にて報告されます。
なお、当社の気候変動対応に関するガバナンス体制は、国内外で高い評価を得ており、2022年には、TCFDが発行する「TCFD2022 Status Report」にてケーススタディとして掲載されています。
役割
- 取締役会:気候変動対応の基本方針の決定、気候変動対応の監督
- 経営会議:気候変動関連リスク及び機会の評価の決定、気候変動対応に係る重要な目標の決定
- サステナビリティ推進委員会:サステナビリティに関する基本方針を審議し、全社的・体系的なサステナビリティ活動を推進
- 気候変動対応推進ワーキンググループ:サステナビリティ推進委員会諮問機関で30名ほどの組織横断的なメンバーで構成される。気候変動関連のリスクや機会の評価を実施
- コーポレートHSE委員会:環境安全方針に基づく温室効果ガス排出量の集計・分析・報告
年 |
取締役会 |
決議 |
審議・報告 |
主な内容 |
---|---|---|---|---|
2021年 |
11/16回 |
6 |
13 |
「気候変動対応の基本方針」の策定、グリーンボンド発行 |
2022年 |
14/15回 |
6 |
16 |
「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」の策定、基本方針に基づく取り組みの一部改訂、ネットゼロ5分野の事業状況、リスクと機会の評価結果の更新 |
2023年 |
14/16回 |
3 |
18 |
基本方針に基づく取り組みの一部改訂、ネットゼロ5分野の事業状況、リスクと機会の更新の更新 |
気候変動対応と役員報酬との連動
当社の代表取締役を始め全ての取締役(社外取締役を除く)の報酬においては、2022年に報酬制度を改定し、株式報酬のKPIとして、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」の管理指標となっている温室効果ガス排出原単位を採用しています。また、担当役員においては、気候変動対応目標、リスク管理や情報開示などを含め気候変動対応の推進に関し毎年定性目標を設定しており、その達成度の評価が報酬に反映されます。
戦略
当社はエネルギー企業として、クリーンで強靭な上流事業の継続によるエネルギーの安定供給と、ネットゼロ5分野の取組み加速という両輪により、2050年ネットゼロに向けた事業戦略を推進しています。
2023年度の気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況
リスク区分 |
リスクの評価対象 |
リスク発生時期見込 |
対策の状況 |
|
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政策・法規制 |
|
短 |
中期 |
|
技術及び市場 |
|
中期 |
長期 |
|
レピュテーション |
|
短 |
長期 |
|
レピュテーション |
Scope3削減目標の設定を求められるリスク |
短期 |
中期 |
*カーボンオフセット商品とも呼ぶ |
資金調達 |
投資家や金融機関から当社の事業内容や温室効果ガス排出量削減に向けた取組み及び情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
中期 |
|
リスク区分 |
リスクの評価対象 |
リスク発生時期見込 |
対策の状況 |
|
---|---|---|---|---|
急性 |
熱帯低気圧や洪水等の極端な気象現象が、操業施設に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
中期 |
|
慢性 |
長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇が操業施設に悪影響を及ぼすリスク |
中期 |
長期 |
|
短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超 |
2023年度の気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込及び長期戦略と進捗状況
機会評価対象 |
時期 |
機会の長期戦略と進捗状況 |
|
---|---|---|---|
生産プロセスでのエネルギー効率改善 |
短 |
|
|
短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超 |
機会評価対象 |
時期 |
機会の長期戦略と進捗状況 |
|
---|---|---|---|
再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用 |
短 |
中期 |
|
中期 |
長期 |
|
|
長期 |
|
||
短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超 |
機会評価対象 |
時期 |
機会の長期戦略と進捗状況 |
|
---|---|---|---|
CCUS の推進 |
中期 |
|
|
長期 |
|
||
水素事業の展開 |
中期 |
|
|
長期 |
|
||
再生可能エネルギー事業の拡大 |
短 |
地熱
|
|
中期 |
風力
地熱
|
||
カーボンリサイクルの推進 |
中期 |
|
|
長期 |
|
||
新分野事業の開拓 |
中期 |
|
|
中期 |
長期 |
|
|
長期 |
|
||
カーボンニュートラル商品の販売促進 |
短 |
|
|
森林保全の推進 |
短 |
|
|
短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超 |
機会評価対象 |
時期 |
機会の長期戦略と進捗状況 |
|
---|---|---|---|
エネルギー供給の多様化 |
中期 |
|
|
よりクリーンな天然ガスの開発 |
中期 |
|
|
短期〜1年以内中期1年超5年以内長期5年超 |
<ケーススタディ> ネットゼロに向けた森林保全の推進
気候変動対応における森林保全・植林の重要性
昨今、気候変動への対応においてNature Based Solutions(NbS:自然に根ざした解決策)への注目が高まっており、世界各地で操業を行う当社においても責任ある企業として取り組むべき領域と認識しています。とりわけ森林保全・植林プロジェクトは、森林減少・劣化抑制によるCO2 排出削減や植林によるCO2吸収量の増大だけではなく、貴重な生物多様性や水源の保全、土壌浸食の低減、地域住民の貧困緩和・生計向上など、相乗効果である“Co-benefits”が期待でき、国連が提唱するSDGs へ広く貢献することができます。
当社における森林保全・植林の取組み
当社は、長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」において、2050年ネットゼロカーボン社会に向け、当社が注力すべき事業分野(ネットゼロ5分野)の一つとして森林保全の推進を位置付けています。これは、ミティゲーション・ヒエラルキー1の考え方に則り、石油・天然ガス分野のクリーン化、天然ガスシフト、CCUS、再生可能エネルギーの導入などを通じたネットゼロ目標への取組みを補完するものとして、森林保全・植林によるCO2の吸収を重視しているためです。 オペレーターとして操業するオーストラリアのイクシスLNGプロジェクトでは、北部準州でのサバンナ火災管理プログラムと、西豪州南西部のユーカリ植林プログラムを実施しています。サバンナ火災管理プログラムでは、同プロジェクトの開発及び運用をサポートしており、プロジェクトによって適用される火災管理技術は、山火事からの温室効果ガス排出量の削減に貢献しています。ユーカリ植林プログラムでは、2008年に開始され、これまでに約140万本のユーカリの苗木が植えられました。また、炭素の隔離に加えて、塩分や侵食による土壌の劣化を防ぎ、隣接する土地防風壁としても機能しています。これまでにこの2つのプログラムで、235,737トン分の豪州カーボンクレジット(ACCUs)を発行しました。(ACCUsは、1トンのCO2に相当)また、オーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空とともにカーボンファーミング及びバイオマス燃料事業協⼒に係る協業については、2023年から豪州Wheatbeltプロジェクトにて植林を開始しています。
1 ミティゲーション・ヒエラルキー:環境に対する負の影響に対して、その影響の回避、最小化、復元策が図られた後で、それでも残る影響を補償するために最終的に代償(オフセット)の手段が検討されるべき、という考え方。
カーボンクレジット調達・活用に対するINPEXのアプローチ
当社の温室効果ガス排出量のオフセットには、信頼性の高い国内外の認証制度に基づき、森林保全事業への支援や参画を通じ得られたカーボンクレジットを活用しています。また、国内外のさまざまなイニシアティブ等、クレジットに関する最新動向をフォローするとともに、プロジェクトの中長期的なパフォーマンスの評価を通じて、高品質のクレジット調達に努めています。当社では以下の認証制度に基づくプロジェクトのカーボンクレジットを選定し、活用しています。
VCS(Verified Carbon Standard):国際的なカーボンオフセット基準団体Verraがクレジットを認証する基準
JCM(Joint Crediting Mechanism):途上国と協力して温室効果ガスの排出削減や吸収に取組み、削減や吸収の成果を両国で分け合う日本政府主導の二国間クレジット制度
J-クレジット:日本国内での取組みによる温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして日本政府が認証する制度
ACCUs(Australian Carbon Credit Units):豪州政府の排出削減法に基づいて発行される豪州カーボンクレジット
高品質のクレジット調達に向けた取組み
- プロジェクト評価を実施
高品質のカーボンクレジットを選定すべく、当社ではクレジット調達前にプロジェクト評価を実施した上で、最終的な選定を行っています。具体的には、永続性2の観点で懸念すべき事項がないこと、地域住民含むステークホルダーとの間で懸念すべき事項がないこと、土地所有・使用権が明確かつクレジット期間以上にわたって確保されていることなどの条件確認により、優良なプロジェクトからのクレジット調達を進めています。また、内部評価に加えてCalyx Global社などの外部評価企業によるクレジット評価結果も踏まえて総合的に判断しています。 - “Co-Benefits”を有するプロジェクトを優先
CO2排出削減やCO2吸収効果に加え、国連が提唱するSDGsに広く貢献する“Co-Benefits”を有するVerraのSD VIStaやCCB付きのプロジェクトを優先的に選定しています。- SD VISta: Sustainable Development Verified Impact Standard:プロジ ェクトのSDGsへの貢献を認証する基準。
- CCB(Climate, Community & Biodiversity Standards):「気候」「コミュ ニティ」「生物多様性」の 3側面全てのプラスの効果を認証する基準
2 永続性:CO2の排出削減量・吸収量が大気に放出されることなく恒久的に固定される必要性を示す概念
移行リスクの財務的評価
当社はIEAによるWorld Energy Outlookレポート(WEO)内のシナリオを活用し、以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。一つ目は、インターナルカーボンプライスを用いた当社の各プロジェクトの経済性評価です。世界では既に150以上の国・地域が2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと推測されることから、ベースケースからインターナルカーボンプライス考慮した上で経済性を評価しています。当社ではWEOのカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年更新しています。2023年からは、WEOのカーボンプライス見通しを反映の上、所在国にカーボンプライス制度が存在する場合は、外部専門家の価格予想等を用いた当該国における当社の見積価格を参照しています。カーボンプライス制度が存在しない場合は、 IEA-STEPSのEU価格(2030年US$120 /tCO2e、2040年US$129/tCO2e、2050年US$135/tCO2e)に連動した変動価格を参照しています。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的影響評価です。これは、IEA-STEPS、IEA-APS及びIEA-NZEの油価とカーボンプライスの推移が、当社ポートフォリオに与える影響を評価するものです。これら3つのシナリオが提示している油価及びカーボンプライスをプロジェクトのNPV 計算に適用し、ベースケースのNPVからの変化率を算出することで、当社ポートフォリオが受ける影響を評価しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
|
プロジェクト経済性評価 |
ポートフォリオ財務的影響評価 |
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評価手法 |
カーボンプライス政策が、プロジェクトの経済性に与える影響を評価 |
下記シナリオによる油価及びカーボンプライスによる影響を評価
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指標 |
インターナルカーボンプライス適用によるIRR(ベースケース) |
上記指標価格適用によるNPV変化率(感応度分析) |
取組み状況 |
2021年度よりベースケース化 |
2018年より実施しており、22年度よりNZEシナリオを追加 |
物理的リスクにおけるアセット評価
当社は、物理的リスクにおいて、急性リスクと慢性リスクに分けて分析しており、毎年見直しを行っています。2018年に物理的リスクについての評価プロセスを検討し、ロードマップを設定しました。2019年から主要オペレータープロジェクトであるイクシスLNGプロジェクトと新潟県の国内アセットにおける評価を開始しました。これは、国内及び海外における操業中のオペレータープロジェクトにおける保険付保額を100%カバーしています。2020年、2021年にはノンオペレータープロジェクト11件についても評価を実施しました。2022年は当社の主要施設の一つである直江津LNG基地において、前提としていた日本の気象庁発行の観測・予測評価報告書が更新されたことを受け、物理的リスクを再評価しています。同報告書内RCP8.5シナリオでは、平均海面上昇幅を0.19m程度と予測されていますが、評価の結果、同基地はこの水面上昇に耐えうる構造です。2023年度には、社外の評価サービスを用い、河川氾濫及び高潮による国内アセットの直接損害額及び間接損害額を試算しました。企業総合補償保険における上位10地点の国内事業所、国内パイプライン及び主要子会社事業所を対象としており、2030年及び2050年時点の想定損害額は限定的であることを確認しています。なお、これらの物理的リスク評価では、共通してIPCC 第5次評価報告書のRCP8.5シナリオにおける21世紀半ばの平均気温上昇、海面上昇などの指標を利用しています。
これらの評価を踏まえて、慢性リスクに関しては、イクシスLNGプロジェクトを始め沿岸部に立地する主要施設は、海水位上昇などを織り込んで設計しているため、洪水リスクは低いと評価しています。また、今後の気温上昇により運転効率の低下などの影響が考えられますが、適宜施設の改善を行っており、2030年までに大きな損害が出ないと評価しています。
急性リスクに関しては、主要オペレーター案件で適切な計画、操業、訓練、外部情報活用などにより、台風やサイクロンなどの極端な気象現象に十分な備えを持って取り組んでいます。当社の主要な拠点である直江津基地のLNG受け入れ桟橋設備では、施設の被害があった場合に備えて、近隣発電所との間に基地間を接続する連系配管を有しています。これにより、連系配管を利用して当該発電所の受け入れ桟橋からLNGを受け入れる体制を構築しています。加えて、当社の主要施設は、自然災害の財物保険の手配により、急性リスクによる財務的損失の軽減を図っています。また、国内での自然災害についてはパイプラインのリスク評価や対応策の検討の上、自然災害リスクの高い部分において引替え工事を実施しました。
尚、HSEマネジメントシステム文書であるHAZID(Hazard Identification)ガイドラインでは、HAZIDワークショップを行う際のガイドワークの一つに気候変動による影響を定めており、新規プロジェクトを含め当社の事業活動のライフサイクルを通したリスク管理アプローチに物理的リスク評価を組み込んでいます。今後も物理的リスクに関しては、組織横断的なチームで定期的に評価の実施や適切な開示を進めていくと同時に、分析手法を多様化させ、より多角的な評価を進めていきます。
当社の低炭素社会シナリオ
2050年3までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社は国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)の公表政策シナリオ(IEA-STEPS)、発表誓約シナリオ(IEA-APS)及び2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオ及び技術進展シナリオを参照しています。
当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2022年2月に「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」を策定しました。今後もシナリオのレビューを用いながら事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
3 IEAのWEOでは2050年までの国際エネルギー情勢について展望している
IEA World Energy Outlook(WEO) |
公表政策シナリオ(IEA-STEPS) |
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発表済み誓約シナリオ(IEA-APS) |
|
2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE) |
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日本エネルギー経済研究所 |
レファレンスシナリオ |
技術進展シナリオ |
気候変動関連リスク及び機会の評価・管理
当社は、気候変動関連リスク及び機会の評価・管理を、原則として年次サイクルで実施しています。全社的な気候変動対応の推進は、経営企画本部経営企画ユニット内の気候変動対応推進グループが担当しています。
気候変動関連リスクに関しては、各部門を代表する30名ほどのメンバーで構成される「気候変動対応推進ワーキンググループ」が評価を実施して、予防及び低減措置案を策定しています。予防及び低減措置案は、当社が取り組むべき検討課題としてサステナビリティ推進委員会で審議された上で、年度計画に反映されます。
なお、リスク評価のプロセスは、国際的なリスク管理基準であるISO31000(2009)(図A)の手順に従っています。外部要因・内部要因をアップデートし、当社の状況をワーキンググループメンバーで共有した上で、リスクを特定し、その原因、予防措置、低減措置、及び残存リスクを分析(図B)し、その残存リスクを当社で作成した「TCFD 提言対応リスク評価マトリクス」(図C)を使用して評価しています。
当社の気候変動関連リスク評価の開示については、TCFDコンソーシアムが発表した「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0事例集」においても、好事例として紹介されています。
気候変動関連機会については、「長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」に基づいて、イノベーション本部や水素・CCUS 事業開発本部、再生可能エネルギー事業本部などを中心として全社的に取り組んでいきます。
また、「気候変動対応の基本方針」に基づく「INPEXの取組み」において、ネットゼロ5分野、上流事業のクリーン化と天然ガスシフトに関する取組みを取りまとめています。この文書はサステナビリティ推進委員会で審議され、社長決裁を経た上で経営会議・取締役会に報告する仕組みとなっています(図D)。
指標と目標
気候変動対応目標
当社は、パリ協定目標に則したネットゼロカーボン社会の実現に貢献すべく、3つの目標を定めています。
一つ目は、パリ協定目標に則し、2050年までに排出量ネットゼロとする目標です。二つ目は、そのプロセスとして、2030年時点で排出原単位を30% 以上低減(2019年比)します。三つ目は、販売した石油・天然ガスの 燃焼によるScope3排出量をバリューチェーン全体の課題として、関連する全てのステークホルダーと協調してその低減に取組みます。 なお、2030年目標の達成に向け、中期経営計画2022-2024では、排出原単位を3年間で10%(4.1kg-CO2e/boe)以上低減することを事業目標として加えています。
実績
2023年度の温室効果ガス排出量(Scope1+2)は、約692万トン-CO2eとなり、 2022年と比較すると横這いの結果です。これは、LNGプロジェクトの生産量が拡大としたことによる排出量増加とクリーン電力活用による排出量低減とが相殺した結果となっています。
|
2021年1-12月 |
2022年1-12月 |
2023年1-12月 |
---|---|---|---|
Scope11(千トン-CO2e) |
7,302 |
6,839 |
6,864 |
Scope21(千トン-CO2e) |
136 |
69 |
55 |
排出原単位2(kg-CO2e/boe) |
33 |
28 |
28 |
メタン排出原単位3(%) |
0.04 |
0.05 |
0.05 |
2023年度のオペレーショナルコントロールの実績は以下の通りです。
項目 |
2021年1-12月 |
2022年1-12月 |
2023年1-12月 |
---|---|---|---|
Scope1(千トン-CO2e) |
6,658 |
6,339 |
6,622 |
Scope2(千トン-CO2e) |
45 |
48 |
35 |
オペレーショナルコントロール:本社、技術研究所、海外事務所、国内及び海外のオペレーション事業体(当社がオペレーターとして操業を行う拠点)を対象範囲とする
自社における温室効果ガス削減への取組み
温室効果ガス削減に向けて、国内外オペレータープロジェクトでは、自社がオペレーターとしてプロジェクトを指揮する立場であることから、各事業場の状況に応じた省エネ活動、通常操業時の継続的なフレア・ベントの回避を行っています。INPEX本社で使用する電力は実質的に100%再生可能エネルギーです。 また、アブダビでの陸上施設における100%クリーン電力を使用していることに加え、海上施設電力を陸上からのクリーン電力で賄う等のクリーン化をADNOCとともに推進しています。
メタン逸散量低減の取組み
当社はメタン排出原単位を現状の低いレベル(約0.1%)で維持することを目標に掲げています。2023年度のメタン排出原単位は0.05%となっており、目標値以下の水準を維持しています。
2023年には、石油・天然ガス企業を対象とするメタン排出削減に関する報告フレームワークであるThe Oil & Gas Methane Partnership 2.0 (以下、OGMP2.0)に加盟しました。OGMP 2.0は、国際連合環境計画によって設立された国際的な報告フレームワークであり、加盟企業に対し、メタン排出削減を促す包括的かつ測定に基づく報告枠組を提供するものです。当社は、OGMP2.0が提供する報告枠組みに従ってメタン排出削減の報告を行うことで、自社のメタン排出報告量の正確性と透明性を確保するとともに、メタン排出量の測定・削減に向けた加盟企業間での技術革新や取組み事例の共有など積極的に行っていきます。
メタン逸散量に関しては、メタン排出量の管理及び低減のため、2018年度から国際的な手法に基づく集計・報告を開始しています。
国内プロジェクトにおいては、2019年度に設備・機器からのメタン逸散の点検対象箇所の調査・特定作業を実施し、集計・報告体制を確立しました。また、2020年度にはレーザーメタン検知器を導入し、ほぼ全対象箇所において点検を実施しています。また、国内のパイプラインにおいては、自動車搭載型のメタン排出検知装置や、ドローンを導入し、全長1,500km全ての区間において点検を実施しています。点検の結果、逸散が確認された箇所は直ちに対策を行っています。
海外プロジェクトでは、2022年度にイクシスLNGプロジェクトのCPF(沖合生産・処理施設)及びFPSO(沖合生産・貯油出荷施設)において、また2023年度は陸上のガス液化プラントにおいて、赤外線カメラを利用したLDAR(Leak Detection And Repair)プログラムを実施し、メタン逸散の点検を実施しました。今後ドローンの導入など、OGMP2.0の要求する水準に則したメタン排出管理の実施に向け検討を進めています。
その他のプロジェクトにおいても同様の対策を検討しており、継続的にメタン逸散量削減に向けた全社的な取組みを進めていきます。
フレア削減の取組み
当社は2030年までにオペレータープロジェクトにおける通常操業時のゼロフレア達成を目標に掲げており、社内関係部署間で連携してフレア削減対策の検討を進めています。
フレア削減対策の研究・開発の一環として日本国内ではメタン分解技術を応用し、フレアガス中の炭素分を固定化し、大気中へのCO2排出を削減するための取組みの導入について検討を進めています。(下図参照) また、2022年からは、Ipieca・IOGP(the International Association of Oil & Gas Producers)・GGFR(Global Gas Flaring Reduction Partnership)が策定した” 石油・天然ガス業界向けフレアリング管理ガイダンス”に沿って、ルーティンと非ルーティンの二種類に分けてフレア実績を管理しています。
一般に比較的小規模な油・ガス生産設備から排出されるガス(フレアガス)を削減・有効利用することは困難とされており、多くの原油処理設備で焼却処理を行い、CO2を排出しています。メタン分解技術を応用してこのフレアガス中の炭素分を固定化し、大気中へのCO2排出削減が可能となります。
サプライチェーンでの排出削減の取組み - Scope3削減に向けて
コントラクター及びサプライヤーとの取組み
当社の「環境安全方針」においては「温室効果ガス排出管理プロセスに基づき、温室効果ガス排出の削減に努めること」を宣言しています。請負契約及び資材調達契約に「環境安全方針」の遵守を求める条項を盛り込むことで、サプライチェーンでの排出削減の取組みを推進しています。 2022年7月に制定したサプライヤー行動規範においては、当社がサプライヤーへ求める事項を定めており、温室効果ガス排出量の削減を含む環境に配慮した自主的な取組みを項目の一つとしております。2023年11月には、国内のサプライヤー75社に対し、サプライヤー連絡会を開催しました。本連絡会では、調達環境や当社の事業計画について情報共有を行うとともに、温室効果ガスの排出削減を含めたサプライヤー行動規範の遵守とサプライチェーン上のESGリスクについても説明をしました。今後は説明会対象範囲の拡大や表彰制度の導入等を検討しており、引き続き、サプライチェーン全体での排出削減に取り組んでいきます。
カーボンニュートラル商品の販売促進
当社は現在お客さまに向け「カーボンニュートラル商品4」の販売を進めており、これまでの販売を通じた温室効果ガス削減量はCO2換算で172万トンを超えています。「カーボンニュートラル商品」は、当社が販売するLNG・天然ガス・LPG・ジェット燃料商品において、採掘から輸送、燃焼に至るまでのライフサイクルで発生する温室効果ガスをその排出量に見合う量のカーボンクレジットで相殺(カーボンオフセット)することで、ネットゼロとみなされる商品のことです。当社はこのようなカーボンニュートラル商品の提供を通じ、お客さまと共にサプライチェーンにおける低炭素化に取り組んでいきます。
4 カーボンオフセット商品とも呼ぶ
温室効果ガス排出量データの集計・分析・報告
温室効果ガス排出の実績においては、現地国の制度、並びに国際的なガイドラインに準じた手順を定め、定期的に集計、分析、報告しています。国内の法令においては、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に従い、適正な管理と報告を行っています。また、温室効果ガス排出量に対しては報告内容の信頼性確保のためにSOCOTECより第三者保証を受けています。 国内の探鉱・開発事業では、国内の温室効果ガス排出削減の取組みとして日本経済団体連合会が自主的に行っている「カーボンニュートラル行動計画」にエネルギー資源開発連盟を通じて参加しています。2021年度には、2030年度排出量削減目標の見直しを実施しました。2023年度には、日本政府の掲げるGXの趣旨、方向性に賛同し、GXリーグへの参画移行手続きを行いました。GXリーグ参画企業は自主的な排出量取引(GX―ETS)の対象となることから、2024年度以降適切な報告をしていきます。
TCFD提言に沿った開示内容及び開示箇所
TCFD提言の概要 |
当社の開示内容 |
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---|---|---|
ガバナンス |
||
気候変動関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する |
||
1 |
気候変動関連のリスク及び機会についての、取締役会による監督体制を説明する |
|
2 |
気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する |
|
戦略 |
||
気候変動関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重要な場合は、開示する |
||
1 |
組織が識別した、短期・中期・長期の気候変動関連のリスク及び機会を説明する |
|
2 |
気候変動関連のリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する |
|
3 |
2°C以下シナリオを含む、さまざまな気候変動関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンス(対応力 )について説明する |
|
リスク管理 |
||
気候変動関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する |
||
1 |
組織が気候変動関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する |
|
2 |
組織が気候変動関連リスクを管理するプロセスを説明する |
|
3 |
組織が気候変動関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する |
|
指標と目標 |
||
気候変動関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する |
||
1 |
組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候変動関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する |
|
2 |
Scope1、Scope2及び当てはまる場合はScope3の温室効果ガス排出量と、関連リスクについて開示する |
|
3 |
組織が気候変動関連リスク及び機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績について説明する |
指標の概要 |
当社の開示内容 |
開示箇所 |
|
---|---|---|---|
1 |
資本配備 |
2022~2030年の成長投資額 |
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2 |
気候関連の機会(ネットゼロ5分野) |
2030年頃の営業キャッシュフロー |
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3 |
報酬 |
気候変動対応と役員報酬との連動 |
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4 |
物理的リスク |
物理的リスク評価プロセス |
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5 |
移行リスク(財務的影響評価) |
移行リスクの財務的評価 |
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6 |
インターナルカーボンプライス |
移行リスクの財務的評価 |
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7 |
温室効果ガス排出量 |
Scope1, 2, 3実績 |