TNFD提言への持続的な取組み
当社は、生物多様性及び自然に関し、国際動向に沿って取組みの強化を図っています。
2022年より、当社は「TNFD Forum」に参加し、TNFDフレームワーク1に関する情報収集と社内での試行的な評価を開始しました。
2023年9月にTNFDの最終提言が公表されたことで、企業の自然関連対応と情報開示に対する世の中の関心がさらに高まっています。TNFD開示提言のなかには、自然関連のマテリアリティ、事業の地域特性、バリューチェーンを考慮した評価や行動が必要な項目が含まれています。これらの項目については開示情報のあるべき姿を検討しつつ、必要なデータを特定し、評価プロセスを整備する等、継続的な評価・改善と情報開示を進めていきます。
1TNFD(Task force on Nature-related Financial Disclosures; 自然関連財務情報開示タスクフォース)が策定している、自然関連リスクと機会の評価・情報開示フレームワーク。本フレームワークでは、自然関連のリスクと機会を体系的に評価するプロセスである「LEAPアプローチ」が提案されている。自然との接点を発見する(Locate)、依存関係と影響を診断する(Evaluate)、リスクと機会を評価する(Assess)、自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する(Prepare)の4フェーズから構成される。
自然関連のガバナンス
ガバナンス体制
当社の生物多様性保全を含む環境管理に関するガバナンス体制は、サステナビリティ推進体制のガバナンスに記載のとおりです。
ステークホルダーエンゲージメント
当社は、事業活動を実施するうえで、地域社会や先住民族を含むステークホルダーとの強固な信頼関係の構築、維持に努めています。
「人権尊重への取組み」に記載のとおり、当社は、国連のビジネスと人権に関する指導原則や国連グローバル・コンパクトの人権に関する原則などの国際規範を支持しています。また、2017年にINPEXグループ人権方針を策定・公表し、事業活動を行う地域において、サプライチェーンを含む全てのステークホルダーの人権への取組みを推進しています。
また、「人権デューディリジェンス」に記載の通りプロジェクト初期段階に、プロジェクトサイト周辺のステークホルダーを特定、マッピングし、積極的にコミュニケーションを行っています。特に環境社会影響評価では、国際的な環境社会ガイドラインであるIFCパフォーマンススタンダードに基づき、地域社会や先住民族への対応と継続的な対話を実施しています。
自然関連の戦略
生物多様性の損失は気候変動対応と共に、地球全体の社会課題です。国際的には生物多様性条約締約国会議(COP)で議論が継続され、生物多様性保全に関する企業への期待や果たすべき役割が益々重要となっています。こうした事業環境の変化により生物多様性の損失リスクが当社の信用や、資金調達、法規制、市場リスク等へと直結する可能性が高まっています。
「生物多様性保全」の取組みを強化するため、2022年に「環境安全方針」(現「HSE方針」)の改定、並びに「生物多様性保全、水管理、廃棄物管理に係る基本的な考え方、及びコミットメント」の策定、公表を行いました。当コミットメントのなかで、生物多様性に関するリスクと機会の特定について述べています。策定・改定に際しては、プロジェクトの事業内容や地域性を踏まえ、昆明・モントリオール生物多様性枠組、IFCパフォーマンススタンダード6、TNFDフレームワーク、IOGP・Ipiecaガイダンス等の国際的な枠組みやガイドラインを参照しました。
また、当社は、環境コミットメントを達成するための測定可能な目標を設定し、2025年2月に公開した「INPEX Vision 2035」のなかで掲載しています。自然関連課題へ全社的に対応すべく、取組みを深化してまいります。
自然関連の依存と影響、リスクと機会の特定・評価
2023年度に、TNFDフレームワークβ版(v0.4)の「LEAPアプローチ」に基づき、当社の日本国内のオペレータープロジェクト(14拠点)を対象としたトライアル評価を実施しました。
2023年9月にTNFDフレームワーク最終提言(v1.0)が正式に公開され、同年10月に「LEAPアプローチ」に関するガイダンスも更新されました(v.1.1)。これを受け、当社におけるトライアル評価手法もアップデートしました。また、2024年より、当社オペレータープロジェクト国内24拠点、海外6拠点に対象範囲を拡大してトライアル評価を実施しました。
以下、2024年のLEAPアプローチ(TNFDフレームワークv1.0)に関するトライアルで実施した「Locate(発見)」及び「Evaluate(診断)」プロセスを概説します。
LOCATE: 自然との接点の「発見」
LOCATE フェーズでは、TNFDのガイダンスに基づき、当社オペレーション事業活動が自然に与える影響と、自然環境の変化が当社オペレーション事業へ及ぼす影響の両面を考慮し、優先地域を特定しました。優先地域の特定は、以下の3つのステップで実施し、評価の対象拠点について、当社における重要度や拠点周辺の生態系について把握しました。
LOCATEフェーズの評価のステップ
生態系関連情報を整理した社内データベースの概観

2024年度評価で特定された、当社オペレータープロジェクトにおける優先地域
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マテリアルな地域 |
要注意地域 |
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優先地域 |
事業内容 |
重要な依存、影響、リスクおよび機会が存在するか
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自然への脆弱性が高いエリアに該当、または近接するか
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日本 |
長岡鉱場 |
天然ガス・コンデンセートの生産・貯蔵 ・輸送・発電・地下貯蔵 |
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南阿賀鉱場 |
天然ガス・原油の生産・輸送 |
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千葉鉱場 |
緊急時のかん水の放流 |
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(放流口) |
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直江津LNG基地 |
LNGの貯蔵・気化 |
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オーストラリア |
イクシスLNGプラント |
天然ガス・コンデンセートの生産・貯蔵・輸送 |
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オフショア施設(CPF・FPSO) |
天然ガス・コンデンセートの生産・貯蔵・輸送 |
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UAE |
JEL |
天然ガス・原油の試験生産 |
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ローリー輸送 |
EVALUATE: 自然との依存・影響を「診断」
EVALUATEフェーズでは、ENCORE2 等を使用して得られたスクリーニング評価を基に、優先地域での事業活動に関連する依存関係と影響を特定しました。石油・天然ガス開発セクターである当社の事業活動は、事業エリア周辺の陸上/淡水/海洋生態系や大気・水環境にさまざまな影響を及ぼし、また、自然がもたらすさまざまな生態系サービスに依存しています。ENCOREの評価は、セクターの一般的な結果であるため、国内・海外事業の立地条件や事業内容を勘案の上、評価項目の重みづけ等を行い、自社独自の評価を実施しています。
2Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure:UNEP-FIやUNEP-WCMCが中心となり開発した、ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然関連の依存と影響を評価するツール。
EVALUATEフェーズの評価のステップ
当社オペレータープロジェクトにおける依存と影響
本評価の結果、当社の事業活動において、以下の4つの自然資本サービスへの依存度が特に高いことが明らかになりました。これらの生態系サービスは、安定した操業や環境リスクの管理に不可欠であり、自然資本の変化が事業に与える影響を慎重に評価する必要があります。
- 事業活動に必要な水供給サービス
油・ガスの生産プロセスにおいては、大量の水が必要とされます。特に冷却工程では安定的な水供給が不可欠であり、水ストレスが高い地域では操業リスクが増大します。当社における水資源管理の取組みについては、水資源の管理をご覧ください。 - 事業活動に伴って排出される汚染物質の希釈サービス
事業活動に伴い排出される大気汚染質や水質への影響を抑えるため、当社はプロジェクト実施国の法令及び国際的なGood Practice等に基づき、適切な大気汚染防止策及び排水処理を実施しています。その上で、自然環境(大気や河川、海洋)が持つ希釈・浄化機能に依存しており、これらの機能が適切に維持されることが重要です。特に流域の水量や水質が悪化した場合、排水の希釈・浄化能力が低下し、環境負荷が高まるとともに、操業継続にも影響を及ぼす可能性があります。今後も、環境規制を遵守しながら大気質・水資源管理を強化し、持続可能な操業を維持していくための対策を検討してまいります。 - 安定操業に関わる気候調整サービス
事業活動は、気温や降水量、風速などの気候条件に影響を受ける可能性があります。極端な気象現象(ハリケーン、干ばつ、海水面上昇等)が増加すると、設備の運転条件の変更や操業停止等、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。詳細は「気候変動」をご覧ください。 - 安定操業に関わる土地の安定化サービス(長岡鉱場)
地盤の安定性は設備の安全な運用に不可欠です。長岡鉱場周辺は、平野部と丘陵・山間部が連続する地形となっており、住宅地・農地・森林・工業施設が混在する景観を形成していることから、周辺の植生によって提供される土地の安定化サービスへの依存が高いと考えられます。長岡鉱場周辺での洪水や暴風雨の発生は、土地の浸食や地盤沈下等を引き起こし、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。当社では、リスクレジスター上に大雨・洪水に関するリスクを明記し、適切な管理を実施するためのマニュアルを策定するなどして、迅速な対応と被害の最小化を図っています。また、災害監視システムやハザードマップを用いて警戒態勢の確立、安全確保のための対策も講じています。
また、本評価の結果、当社の事業活動が自然環境に与える影響として、以下の2つの主要な要素が特定されました。これらの影響は、事業の持続可能性や規制対応に直結するため、慎重な管理と適切な対応策の検討が必要となります。
- 事業実施に伴う陸域・海域利用変化
事業実施に伴い、陸域・海域利用変化が発生します。陸上では、施設建設のための森林伐採や敷地造成が生態系に影響を及ぼし、土壌流出や生物多様性の喪失を引き起こす可能性があります。また、沿岸部に位置するLNG基地では、埋め立てや浚渫による海洋環境の変化や生態系への影響が発生する可能性があります。これらの陸域海域利用変化による影響を最小限に抑えるための管理計画を策定し、実行しています。 - 事業活動に伴うGHGの排出
事業活動に伴うGHGの排出は、気候変動による生物多様性喪失への重要な影響要因の一つとなります。当社の事業では、掘削、生産、輸送など、さまざまな工程でGHGが排出されます。当社で実施されている具体的なGHG排出削減策については、気候変動をご覧ください。
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日本 |
オーストラリア |
UAE |
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生態系サービス |
長岡鉱場 |
南阿賀鉱場 |
千葉鉱場 |
直江津LNG基地 |
イクシスLNGプラント |
オフショア施設(CPF・FPSO) |
JEL |
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動物由来エネルギー |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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バイオマス供給 |
VL |
VL |
– |
VL |
– |
– |
– |
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水供給 |
H |
M |
– |
H |
H |
H |
H |
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遺伝子材料 |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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バイオレメディエーション |
– |
– |
– |
– |
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土砂・土壌の保持 |
H |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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水質保持 |
M |
L |
– |
– |
– |
M |
– |
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土壌質調整 |
– |
– |
– |
– |
– |
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– |
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大気および生態系による希釈 |
M |
M |
L |
M |
M |
H |
M |
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疾病予防・害虫駆除 |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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空気ろ過 |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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洪水緩和 |
H |
– |
– |
– |
L |
– |
– |
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暴風雨軽減 |
H |
– |
– |
– |
L |
L |
– |
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気候調整 |
L |
L |
– |
M |
M |
L |
L |
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個体群・生息地の維持 |
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– |
– |
– |
– |
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騒音減衰 |
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– |
– |
– |
– |
– |
– |
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悪臭・光等の低減 |
– |
– |
– |
– |
– |
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受粉・種子の拡散 |
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– |
– |
– |
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水流調整 |
H |
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– |
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降雨パターン調整 |
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– |
– |
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ビジュアルアメニティ |
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– |
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レクリエーション関連(教育・科学・研究) |
VL |
– |
– |
– |
– |
– |
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精神的・芸術的・象徴的関連 |
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– |
– |
– |
– |
– |
– |
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日本 |
オーストラリア |
UAE |
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影響要因 |
長岡鉱場 |
南阿賀鉱場 |
千葉鉱場 |
直江津LNG基地 |
LNGプラント |
オフショア施設(CPF・FPSO) |
JEL |
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陸域利用 |
H |
H |
H |
– |
H |
– |
H |
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淡水域利用 |
M |
M |
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– |
– |
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海域利用 |
– |
– |
M |
H |
H |
H |
– |
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水使用 |
M |
M |
– |
M |
M |
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L |
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その他資源使用 |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
– |
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GHG排出 |
M |
M |
– |
M |
H |
H |
M |
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非GHG大気汚染物質 |
M |
M |
– |
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M |
M |
M |
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水質汚濁物質 |
M |
M |
L |
M |
M |
M |
L |
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土壌汚染物質 |
L |
L |
L |
L |
L |
– |
L |
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固形廃棄物 |
M |
M |
– |
M |
M |
M |
M |
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攪乱・妨害 |
M |
M |
– |
M |
M |
M |
M |
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侵略的 外来種の侵入 |
L |
L |
– |
L |
L |
L |
L |
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社会的影響 |
M |
M |
M |
M |
M |
M |
M |
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自然関連の具体的な取組み
当社は、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づき、生物多様性への負の影響を回避・低減し、自然を再生・復元する取組みを実行しています。また、IOGPやIpieca、SPE(Society of Petroleum Engineers)の会合における自然関連の情報発信及び収集、並びに国内外のエネルギー企業との意見交換等、業界団体や企業とも積極的に連携しています。
生物多様性・自然に関する具体的な取組みについては、「生物多様性の保全」をご覧ください。
今後の取組み
2023年度、2024年度のLEAP評価では、当社のオペレーター事業と自然環境との関係性について整理を行いました。本評価で整理した結果と得られた知見を踏まえ、今後は、社内で策定した評価方法を継続的に改善し、評価結果をアップデートしていきます。2025年度は、プロジェクトの状況を勘案しながら評価の対象を拡大し、当社の自然関連の重要なリスクと機会の評価を実施していく予定です。
TNFD開示提言の要素 |
当社の開示内容 |
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ガバナンス |
a)依存と影響・リスクと機会についての取締役会による監督体制 |
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b)依存と影響・リスクと機会を評価・管理する上での経営陣の役割 |
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c)IPLCや影響を受けるステークホルダーへの人権方針やエンゲージメント |
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戦略 |
a)組織が特定した短期、中期、長期の依存と影響・リスクと機会 |
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b)依存と影響・リスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に与える影響、移行計画 |
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c)様々なシナリオを考慮し、組織の戦略のレジリエンス |
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d)直接操業の資産・場所を開示 |
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リスク管理 |
a)依存と影響・リスクと機会を特定、評価、優先順位付けするプロセス(直接操業とVC) |
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b)依存と影響・リスクと機会を管理するプロセス |
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c)リスクの特定、評価、管理のプロセスが組織全体のリスク管理にどのように組み込まれているか |
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指標と目標 |
a)戦略・リスク管理プロセスに沿ってリスク・機会を評価し管理するために使用する指標 |
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b)依存と影響の評価結果から導く独自指標 |
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c)依存と影響・リスクと機会を管理するために用いる目標および実績 |