自社における温室効果ガス削減への取組み
温室効果ガス削減に向けて、国内外オペレータープロジェクトでは、自社がオペレーターとしてプロジェクトを指揮する立場であることから、各事業場の状況に応じた省エネ活動、通常操業時の継続的なフレア・ベントの回避を行っています。本社で使用する電力は実質的に100%再生可能エネルギーです。また、ノンオペレータープロジェクトでは、パートナー企業とともに削減施策を実施しています。アブダビでは、陸上施設で100%クリーン電力を使用していることに加え、海上施設で必要な電力を陸上からのクリーン電力で賄う等のクリーン化をADNOCとともに推進しています。ノルウェーにおいては、北海北部の生産施設に向け、浮体式洋上風力発電施設から電力供給を行っています。
国内におけるエネルギーの効率的な利用への取組み
国内においては、エネルギーの使用の合理化および非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に従い、エネルギーの使用の合理化を進めています。法令に基づき、当社の各事業体の活動においては、エネルギーの使用量やその他エネルギーの活用の状況並びにエネルギー使用の合理化に関する検討、取組みに関し報告しています。
省エネ法に関しては、5年間平均原単位について年1%以上低減することを努力目標に掲げ、目標達成に向けた中長期的な計画を作成し、その達成状況を毎年評価し、経済産業省へ報告しています。
省エネに向けた調査研究
直江津LNG基地では、LNGポンプミニフローの設定値見直しを行い、LNGタンクで発生するBOG1を抑制し、BOG圧縮機使用電力量を低減しています。また、長岡鉱場では、電力使用量を低減させるために、LED照明の導入を実施しています。
1Boil off gasの略。低温 LP ガスや LNG のような低温液体を輸送・貯蔵する場合に、外部からの自然入熱などにより気化するガス。
エネルギー効率改善に向けた教育・訓練
エネルギーの使用の合理化に関し、エネルギーを消費する設備の維持、エネルギーの使用の方法の改善および監視のため、エネルギー管理企画推進者とエネルギー管理員を選任しています。エネルギー管理企画推進者およびエネルギー管理員は省エネ法に基づき、エネルギーの使用の合理化等に関して必要な知識と技能を取得することを目的とした法定講習を修了しています。
メタン逸散量低減の取組み
当社はメタン排出原単位を現状の低いレベル(約0.1%)で維持することを目標に掲げています。2024年度のメタン排出原単位は0.05%となっており、目標値以下の水準を維持しています。
当社は、石油・天然ガス企業を対象とするメタン排出削減に関する報告フレームワークであるThe Oil & Gas Methane Partnership 2.0 (以下、OGMP2.0)に加盟しています。OGMP 2.0は、国際連合環境計画によって設立された国際的な報告フレームワークであり、加盟企業に対し、メタン排出削減を促す包括的かつ測定に基づく報告枠組を提供するものです。当社は、OGMP2.0が提供する本枠組みに従ってメタン排出削減の報告を2024年から行い、OGMP2.0が定める基準に達した企業に対して付与される、Gold Standard for Pathwayを取得しました。本取組みを通じ、自社のメタン排出報告量の正確性と透明性を確保するとともに、メタン排出量の測定・削減に向けた加盟企業間での技術革新や取組み事例の共有など積極的に行っていきます。
メタン逸散量に関しては、メタン排出量の管理および低減のため、OGMP2.0加盟以前より国際的な手法に基づく集計・報告を開始しています。
国内プロジェクトにおいては、2019年度から設備・機器からのメタン逸散の点検対象箇所の調査・特定作業を実施し、集計・報告体制を確立しました。その後、レーザーメタン検知器を導入し、ほぼ全対象箇所において点検を実施しています。また、国内のパイプラインにおいては、自動車搭載型のメタン排出検知装置や、ドローンを導入し、全長1,500km全ての区間において点検を実施しています。点検の結果、逸散が確認された箇所は直ちに対策を行っています。
海外プロジェクトでは、2022年度にイクシスLNGプロジェクトのCPF(沖合生産・処理施設)およびFPSO(沖合生産・貯油出荷施設)において、また2023年度は陸上のガス液化プラントにおいて、赤外線カメラを利用したLDAR(Leak Detection And Repair)プログラムを実施し、メタン逸散の点検を実施しました。
そのほかのプロジェクトにおいても同様の対策を検討しており、継続的にメタン逸散量削減に向けた全社的な取組みを進めていきます。
フレア削減の取組み
当社は2030年までにオペレータープロジェクトにおける通常操業時のゼロフレア達成を目標に掲げており、社内関係部署間で連携してフレア削減対策の検討を進めています。フレア削減対策の研究・開発の一環として日本国内ではメタン分解技術を応用し、フレアガス中の炭素分を固定化し、大気中へのCO2排出を削減するための取組みの導入について検討を進めています(下図参照)。 また、2022年からは、Ipieca・IOGP(the International Association of Oil & Gas Producers)・GGFR(Global Gas Flaring Reduction Partnership)が策定した“石油・天然ガス業界向けフレアリング管理ガイダンス”に沿って、ルーティンと非ルーティンの二種類に分けてフレア実績を管理しています。
メタン分解によるフレアガス削減
一般に比較的小規模な油・ガス生産設備から排出されるガス(フレアガス)を削減・有効利用することは困難とされており、多くの原油処理設備で焼却処理を行い、CO2を排出しています。メタン分解技術を応用してこのフレアガス中の炭素分を固定化し、大気中へのCO2排出削減が可能となります。
サプライチェーンでの排出削減の取組み - Scope3削減に向けて
コントラクターおよびサプライヤーとの取組み
当社の「HSE方針」においては「当社の気候変動対応の基本方針に基づき、温室効果ガス排出量の管理及び削減に努めること」を宣言しています。請負契約および資材調達契約に「HSE方針」の遵守を求める条項を盛り込むことで、サプライチェーンでの排出削減の取組みを推進しています。2022年7月に制定したサプライヤー行動規範では、温室効果ガス排出量の削減を含む環境に配慮した自主的な取組みをサプライヤーへ求める事項の一つとしています。また、CSR自己評価アンケートへの回答をお願いする中で、温室効果ガス削減に対するサプライヤーの取組み情報を収集しています。
カーボンオフセット商品の販売促進
当社は現在お客さまに向けカーボンオフセット商品の販売を進めています。カーボンオフセット商品は、当社が販売するLNG・天然ガス・LPG・ジェット燃料商品において、採掘から輸送、燃焼に至るまでのライフサイクルで発生する温室効果ガスをその排出量に見合う量のカーボンクレジットで相殺(カーボンオフセット)することで、ネットゼロとみなされる商品のことです。当社はこのようなカーボンオフセット商品の提供を通じ、お客さまと共にサプライチェーンにおける低炭素化に取り組んでいきます。
これまでの取組み実績
- 2018年:「気候変動対応の基本方針」発行(以後、定期的に見直し改定)
- 2020年:気候変動対応推進ワーキンググループをサステナビリティ委員会の諮問機関化
- 2021年:2050年自社排出絶対量ネットゼロ(Scope1+2)目標設定
- 2022年:「⻑期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)」発表、ネットゼロ5分野を設定
- 2023年:「The Oil & Gas Methane Partnership 2.0」に加盟
- 2024年:「Oil and Gas Decarbonization Charter」に参加
- 2025年:「INPEX Vision 2035」発表、「気候変動対応の基本方針」改定(最新版)
<取組みケーススタディ> ネットゼロに向けた森林保全の推進取組みケーススタディ>

気候変動対応における森林保全・植林の重要性
気候変動への対応において、森林保全・植林プロジェクトなどのNature Based Solutions(NbS:自然に根ざした解決策)の果たす役割は引き続き大きいと考えています。森林の役割は、森林減少・劣化抑制によるCO2排出量の削減や植林によるCO2吸収量の増大だけではなく、貴重な生物多様性や水源の保全、土壌浸食の低減、地域住民の貧困緩和・生計向上など、相乗効果である“Co-benefits”が期待でき、国連が提唱するSDGs へ広く貢献することができます。
当社における森林保全・植林の取組み
当社は、CCSや、水素・アンモニアといった低炭素化ソリューションの提供により、事業を通じた温室効果ガス排出量の削減を進めています。これらの事業に加えて、植林や森林保全の推進も行っています。これは、石油・天然ガス分野のクリーン化、天然ガスシフト、CCS、再生可能エネルギーの導入などを通じたネットゼロへの取組みを補完するものとして、森林保全・植林のCO2吸収によるクレジットを重視しているためです。この取組みの1つとして、今般、群馬県沼田市や森林組合等と、沼田市有林を活用した森林由来J-クレジットの創出にかかる連携協定を締結しました。本制度を通じて同市の森林が持つ環境的価値および経済的価値を新たに定義し、責任ある企業として森林の永続性や地域社会への貢献を目指します。今後も、国内外の事業進展や各国の法制度等を勘案したうえで、取組みを推進していきます。
カーボンクレジット調達・活用に対するアプローチ
当社はミティゲーションヒエラルキーの考えに則りつつ、温室効果ガス排出量のオフセットには、カーボンクレジットを活用していく考えです。使用するクレジットは、信頼性の高い国内外の認証制度に認められたクレジットや、森林保全事業への支援や参画を通じ得られたクレジットを用いていく予定です。このため、当社アセット所在国の炭素関連規制動向を把握するとともに、国内外のさまざまなイニシアティブ等、クレジットに関する最新動向をフォローし、プロジェクトの中長期的なパフォーマンスの評価を通じて、高品質のクレジット調達に努めています。当社では以下の認証制度に基づくプロジェクトのカーボンクレジットを選定し、活用しています。
VCS(Verified Carbon Standard):国際的なカーボンオフセット基準団体Verraがクレジットを認証する基準
JCM(Joint Crediting Mechanism):途上国と協力して温室効果ガスの排出削減や吸収に取組み、削減や吸収の成果を両国で分け合う日本政府主導の二国間クレジット制度
Jークレジット:日本国内での取組みによる温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度
ACCUs(Australian Carbon Credit Units):豪州政府の排出削減法に基づいて発行される豪州カーボンクレジット
高品質のクレジット調達に向けた取組み
- プロジェクト評価を実施
高品質のカーボンクレジットを選定すべく、当社ではクレジット調達前にプロジェクト評価を実施した上で、最終的な選定を行っています。具体的には、永続性2の観点で懸念すべき事項がないこと、地域住民含むステークホルダーとの間で懸念すべき事項がないこと、土地所有・使用権が明確かつクレジット期間以上にわたって確保されていることなどの条件確認により、優良なプロジェクトからのクレジット調達を進めています。また、内部評価に加えて外部評価企業によるクレジット評価結果も踏まえて総合的に判断しています。 - “Co-Benefits”を有するプロジェクトを優先
CO2排出削減やCO2吸収効果に加え、国連が提唱するSDGsに広く貢献する“Co-Benefits”を有するVerraのSD VISta3やCCB Standards4付きのプロジェクトを優先的に選定しています。
2CO2の排出削減量・吸収量が大気に放出されることなく恒久的に固定される必要性を示す概念
3Sustainable Development Verified Impact Standard:プロジェクトのSDGsへの貢献を認証する基準
4Climate, Community & Biodiversity Standards:「気候」「コミュニティ」「生物多様性」の 3側面全てのプラスの効果を認証する基準