ガバナンスと戦略
ガバナンス
当社は、気候変動に関する課題に関し、取締役会による監督体制をとっています。気候変動に関する個別の議題については、サステナビリティ推進委員会諮問機関で30名ほどの組織横断的なメンバーで構成される気候変動対応推進ワーキンググループにおいて、年1回気候変動関連のリスクや機会の評価を実施しています。ガバナンス体制および報酬の詳細については、サステナビリティ推進体制のガバナンスに記載のとおりです。
戦略
当社は、2015年12月に「気候変動対応の基本方針」を発行し、その後、パリ協定⽬標達成に向けた各国の取組みを⽀持し、2021年1月に、2050年自社排出量ネットゼロ(Scope1+2)目標を定めました。以降、外部環境の変化や長期戦略および中期経営計画の更新に合わせて、方針および2050年自社排出ネットゼロを目指すための目標を見直しており、2025年2月には、「INPEX Vision 2035」の発表にあわせて「気候変動対応の基本方針」を改定しました。引き続き、我が国および世界のエネルギー需要に応えつつ、2050 年ネットゼロの実現に向けたエネルギー構造の変革に取り組んでいきます。
また、気候変動対応関連の情報開示については、TCFD 提言に沿った開示を推進しています。また、当社は、国の気候変動に関連する法規制(エネルギーの使用の合理化および非化石エネルギーへの転換等に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律等)や様々な政策を支持し、当社の方針や事業戦略に落とし込んでいます。主要な拠点である日本では、政府が推進するGXリーグに参画し、ネットゼロに向けてリーダーシップを発揮する企業の一つとして、排出量取引制度(GX-ETS)や市場形成ルールに参加しています。
- 当社は、今後も増加する我が国および世界のエネルギー需要に応え、長期にわたり引き続き、エネルギーの安定供給の責任を果たしつつ、2050年ネットゼロの実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取組みます。
- 気候変動に関するパリ協定目標の実現に貢献すべく、2050年自社排出ネットゼロを目指す気候変動対応目標を設定します。
- ネットゼロの実現に向けて、社会のニーズに応えるべく、低炭素化の取組みを確実に推進します。具体策として、「現実的な移行期の燃料」としての天然ガスをよりクリーンな形で供給していきます。加えて、第三者向けにCCSやクリーン水素・アンモニア等の低炭素化ソリューションを提供するとともに、電力関連分野の新たな取組みを強化します。
気候変動関連のリスクおよび機会
当社では、毎年気候変動関連リスクおよび機会の評価を行っています。なお、2024年度より中期経営計画の期間に合わせた時間軸に設定の上、実施しました。
2024年末における気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況
移行リスク |
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リスク |
リスクの評価対象 |
リスク発生時期見込 |
対策状況 |
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政策・ |
プロジェクト所在国・地域が気候変動対策を強化し、カーボンプライシング制度やメタン排出管理規制および環境法令等の導入・強化により、Scope 1,2排出量に対する直接的コストが発生するリスク |
中期 |
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技術 |
再生可能エネルギーやEV等の低炭素エネルギー選好により、石油ガスの需要が減少するリスク |
長期 |
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レピュテーション |
2050年ネットゼロに向け、2035年以降のScope1,2における絶対排出量目標を求められるリスク |
中期 |
長期 |
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Scope3削減目標の設定を求められるリスク |
短期 |
中期 |
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資金調達 |
投資家や金融機関から当社の事業内容や温室効果ガス排出量削減に向けた取組みおよび情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
中期 |
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物理的リスク |
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リスク |
リスクの評価対象 |
リスク発生時期見込 |
対策状況 |
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急性 |
極端な気象現象が操業に悪影響を及ぼすリスク |
短期 |
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慢性 |
長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇が操業施設に悪影響を及ぼすリスク |
中期 |
長期 |
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2024年末における気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込および戦略と進捗状況
資源の効率に関する機会 |
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機会の評価対象 |
機会発生時期 |
進捗状況 |
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生産プロセスでのエネルギー効率改善 |
短期 |
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エネルギー源に関する機会 |
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機会の評価対象 |
機会発生時期 |
進捗状況 |
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再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用 |
中期 |
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中期 |
長期 |
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長期 |
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製品およびサービスに関する機会 |
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機会の評価対象 |
機会発生時期 |
進捗状況 |
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天然ガス/LNG事業 |
中期 |
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CCS 事業 |
中期 |
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長期 |
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水素事業 |
長期 |
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電力事業 |
短期 |
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中期 |
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長期 |
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石油・天然ガス以外の地下資源 |
中期 |
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長期 |
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その他 |
短期 |
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中期 |
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長期 |
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市場に関する機会 |
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機会の評価対象 |
機会発生時期 |
進捗状況 |
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新しい市場へのアクセス |
短期 |
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中期 |
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移行リスクの財務的評価
当社は国際エネルギー機関(以下「IEA」という。)によるWorld Energy Outlookレポート(以下「WEO」という。)内のシナリオを活用し、以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。一つ目は、インターナルカーボンプライスを用いた当社の各プロジェクトの経済性評価です。世界では既に150以上の国・地域が2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入の法規制が進むと推測されることから、ベースケースからインターナルカーボンプライスを考慮した上で経済性を評価しています。ベースケースからの適用をルール化したことで、社内では温室効果ガスにかかるコストが事業投資における重要な要素として認識されるようになりました。また、ステークホルダーに対しては、当社が移行リスクを考慮した上で経営判断を行っていることを示すことができています。
当社ではWEOのカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年更新しています。2023年からは、WEOのカーボンプライス見通しを反映の上、所在国にカーボンプライス制度が存在する場合は、外部専門家の価格予想等を用いた当該国における当社の見積価格を参照しています。カーボンプライス制度が存在しない場合は、2023年版の公表政策シナリオ(IEA-STEPS)のEU価格(2030年US$120/tCO2e、2040年US$129/tCO2e、2050年US$135/tCO2e)に連動した変動価格を参照しました。
しかしながら、2024年公表のIEA-STEPSのEU価格は、2030年時点でネットゼロ宣言をしている先進国の発表誓約シナリオ(IEA-APS)価格よりも高い水準となっており、カーボンプライス制度が未整備の国でIEA-STEPSのEU価格をベースケースとして用いる妥当性が低下しています。また、現在議論されている本邦のGX-ETS制度設計概要を踏まえると、WEOで見通しが記載されている中では、排出枠の無償割当等、現行の韓国ETS制度に近いコンセプトとなっていると考え、2025年以降は、カーボンプライス制度が存在しない場合は、IEA-STEPSの韓国価格の予測価格を採用しています。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオのレジリエンス評価です。これは、IEA-STEPS、IEA-APSおよび2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)の油価とカーボンプライスの推移が、当社ポートフォリオに与える影響を評価するものです。これら3つのシナリオが提示している油価およびカーボンプライスをプロジェクトのNPV計算に適用し、ベースケースのNPVからの変化率を算出することで、当社ポートフォリオが受ける影響を評価しています。引き続き、事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化および当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
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プロジェクト経済性評価 |
ポートフォリオレジリエンス評価 |
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評価手法 |
インターナルカーボンプライスを用いたプロジェクトの経済性に与える影響を評価 |
下記シナリオによる油価およびカーボンプライスによる影響を評価
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指標 |
インターナルカーボンプライス適用によるIRR(ベースケース) |
上記指標価格適用によるNPV変化率 |
取組み状況 |
2021年度よりベースケース化 |
2018年より実施しており、22年度よりNZEシナリオを追加 |
物理的リスクのアセット評価
当社は、物理的リスクにおいて、急性リスクと慢性リスクに分けて分析しており、適宜見直しを行っています。2018年に物理的リスクについての評価プロセスを検討後、ロードマップを設定し、主要オペレータープロジェクトであるイクシスLNGプロジェクトと新潟県の国内アセットにおける評価を開始しました。これは、国内および海外における操業中のオペレータープロジェクトにおける保険付保額を100%カバーしています。その後も、前提としていた日本の気象庁発行の観測・予測評価報告書が更新されたことを受け、当社の主要施設の一つである直江津LNG基地に対する物理的リスクを再評価しています。
同報告書内RCP8.5シナリオでは、平均海面上昇幅を0.19m程度と予測されていますが、評価の結果、同基地はこの水面上昇に耐えうる構造です。さらに、国内アセットに対しては、社外の評価サービスを用いた河川氾濫および高潮による直接損害額および間接損害額を試算しています。企業総合補償保険における上位10地点の国内事業所、国内パイプラインおよび主要子会社事業所を対象としており、2030年および2050年時点の想定損害額は限定的であることを確認しています。これらの物理的リスク評価では、共通してIPCC第5次評価報告書のRCP8.5シナリオにおける21世紀半ばの平均気温上昇、海面上昇などの指標を利用しています。
これらの評価を踏まえて、イクシスLNGプロジェクトを始め沿岸部に立地する主要施設の慢性リスクは、海水位上昇などを織り込んで設計しているため、洪水リスクは低いと判断しています。また、今後の気温上昇により運転効率の低下などの影響が考えられますが、適宜施設の改善・メンテナンスを行っており、2030年までに大きな損害が出ないと評価しています。急性リスクに関しては、主要オペレーター案件で適切な計画、操業、訓練、外部情報活用などにより、台風やサイクロンなどの極端な気象現象に十分な備えを持って取り組んでいます。
当社の主要な拠点である直江津LNG基地のLNG受け入れ桟橋設備では、施設の被害があった場合に備えて、近隣発電所との間に基地間を接続する連系配管を有しています。これにより、連系配管を利用して当該発電所の受け入れ桟橋からLNGを受け入れる体制を構築しています。加えて、当社の主要施設は、自然災害の財物保険の手配により、急性リスクによる財務的損失の軽減を図っています。また、国内での自然災害についてはパイプラインのリスク評価や対応策の検討の上、自然災害リスクの高い部分において引替え工事を実施しました。
なお、当社では、HSEマネジメントシステム文書であるHAZID(Hazard Identification)ガイドラインにおいて、HAZIDワークショップを行う際のガイドワークの一つに気候変動による影響を定めており、新規プロジェクトを含め当社の事業活動のライフサイクルを通したリスク管理アプローチに物理的リスク評価を組み込んでいます。今後も組織横断的なチームで定期的に評価の実施や適切な開示を進めていくと同時に、分析手法を多様化させ、より多角的な評価を進めていきます。
当社の低炭素社会シナリオ
2050年1 までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社はIEAのWEOのIEA-STEPS、IEA-APSおよびIEA-NZE、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオおよび技術進展シナリオを参照しています。
当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2025年2月に「INPEX Vision 2035」を策定しました。今後もシナリオのレビューを通じて事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
1 IEAのWEOでは2050年までの国際エネルギー情勢について展望している