Sustainability Report 2023

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Sustainability Report 2023

人権の尊重

基本的な考え方

当社は、国際人権章典、ILO国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、国連グローバル・コンパクトの人権に関する原則などの国際規範を支持しています。また、人権尊重に対する当社の姿勢を明示し、責任を果たすために2017年にINPEXグループ人権方針を策定・公表し、同方針に基づいて事業活動を行う国・地域において、サプライチェーンを含む全てのステークホルダーの人権への取組みを推進しています。この人権方針において当社は、強制労働や児童労働を一切認めず、結社の自由及び団結権の保護を尊重することを確認しています。

また、当社及びサプライチェーン上の奴隷労働・人身取引の防止に係る方針や体制等を示すとともに、具体的な取り組みなどを開示するため、英国現代奴隷法に基づいた「Modern Slavery Act Statement」(英国現代奴隷法ステートメント(仮訳))、豪州現代奴隷法に基づいた「INPEX Australia Modern Slavery Statement」を毎年公表しています。2022年度からはノルウェー法「Transparency Act」への対応として、INPEX Idemitsu Norgeでは人権・労働条件に関するデューディリジェンスを実施するとともに、その実施状況のレポート「Transparency Act Due Diligence Report」を毎年公表しています。

2023年はサプライチェーンマネジメント強化のため、サプライヤー行動規範ガイドラインの制定、そして当社の事業におけるリスクを再評価する目的で人権デューディリジェンスのアセスメントシートの見直しを実施しました。2024年は石油・天然ガス事業に再生可能エネルギー事業を加えた業界特性・ベンチマーク調査から特に関連性が高い人権課題についてアンケート、インタビューを実施の予定です。

マネジメント体制

当社の人権に対するアプローチは、当社取締役会によって承認されたINPEXグループ人権方針に明記されています。また、コンプライアンス委員会では人権関連のリスクやパフォーマンスを取締役会に報告しています。コンプライアンスの体制については、コンプライアンスの推進に向けた取り組みをご覧ください。

当社では全役員及び従業員を対象とした人権方針、サステナビリティ憲章、行動基本原則及び行動規範において、全ての役員及び従業員に対し法令遵守はもちろんのこと、社会規範を尊重し、高い倫理観を持った行動をするよう義務づけています。とりわけ「行動基本原則」においては、人権に関して以下のとおり規定しています。

  • 人権が個人の尊厳に由来する重要な権利であることを認識し、関係各国において、個人の人権を尊重すること
  • 人権侵害への非加担・コンプライアンス・社会保障と公正な競争:人権に関する国際規範を尊重し、人権を侵害するような行動に加担しないよう配慮すること
  • 差別の禁止と法の下の平等:人種、肌の色、性別、性的指向、性自認、年齢、信条、宗教、出生、国籍、各種障がい、学歴などによる差別を行わないこと
  • 強制労働・児童労働の撤廃:従業員の意思に反して労働を強制せず、また、児童を就労させないこと

人権デューディリジェンス

当社では人権マネジメントの強化を目的として、外部の人権専門家を招き、国内外の拠点を対象に2016年より人権デューディリジェンスを行っています。このデューディリジェンスはINPEXグループ人権方針に沿って実施されており、2023年末時点で、当社のすべての操業現場3カ国、7拠点をカバーしています。

2024年には、石油天然ガス業界のリスクに再生可能エネルギー事業のリスクを加え、第三者機関の協力の下、当社事業のバリューチェーンにおける人権リスクの再評価を実行しています。

バリューチェーン上のステークホルダーとして自社の従業員、先住民の方々、移民労働者、サプライヤー/コントラクター、地域社会も対象としています。

当社がオペレーターとして操業するプロジェクトについては、国際的な環境社会ガイドラインであるIFC Performance Standardsを採用し、人権デューディリジェンスを含む、社会及び環境リスクの管理を行っています。イクシスの操業については、定期的なレポートや監査を通じ、このIFC 基準のコンプライアンスをモニターしています。この基準には、児童労働、強制労働、労働条件や苦情対応などをカバーするIFC Performance Standards 2の「労働者及び労働条件の準拠状況」が含まれます。

デスクトップ調査

2024年には、再生可能エネルギー事業も調査の対象に含め、自社の従業員、女性、子ども、先住民の方々、移民労働者、サプライヤー/コントラクターの従業員、地域社会の人々などへ与える人権リスクを対象としデスクトップ調査のアップデートを行いました。

  • ESG 関連リスクの情報提供機関であるRepRisk AGのデータベースより、石油・天然ガスセクターの不祥事を抽出
  • Verisk Maplecroftを始めとする調査機関の文献を基に、当社が事業を行っている国のカントリーリスクを、High / Medium / Lowの三段階に分類
  • 国際規範や各種ガイドライン、業界に関する文献調査を行い、重要な人権課題を抽出

インタビュー調査

  • デスクトップ調査によって洗い出された人権リスクへの対応状況を把握するため、当社が事業を行っている全ての拠点に対してUNGC の10原則に沿ったグローバル・コンパクトの自己評価ツール(Global Compact Self-Assessment Tool)を参照したアンケート、インタビューなどを実施
  • 2024年は潜在的なリスク・顕在化しているリスクを評価するために、アセスメント内容を改訂

是正アクションプランの検討・実施

  • 上記の調査結果を受けた評価に基づき人権リスクに対する当社のマネジメント状況を確認
  • 評価結果を各拠点の担当者にフィードバックした上で、人権方針の周知徹底や人権教育の提供などの今後の対応について協議
  • 評価結果を踏まえた人権尊重強化の取組みの一つとして、人権教育を継続的に実施
  • リスクとその対応策をより的確にモニタリングするために、リスクとアンケート内容を定期的に見直し
  • 人身売買、同一労働同一賃金など、その他の人権リスク分野についても、リスクの特定・評価プロセスを通じて検討しましたが、当社事業の特徴や地理的特性、既に実施されているリスクマネジメント等を踏まえ、当社の顕著な人権リスクとはみなされませんでした。

なお、2023年は、人権に関する是正計画が必要な操業拠点数は0であったため、是正措置対応の件数も0件となっています。

当社はこれらのリスクを回避するため、以下の取り組みを実施しております。

職場における人権尊重 

職場環境において重要な人権課題として、人権侵害への非加担・コンプライアンス・社会保障と公正な競争、差別の禁止と法の下の平等、児童労働、強制労働、労働安全衛生、労働時間(休憩・休日の権利)、適切な労働環境(水へのアクセス含む)、賃金(十分な生活水準を享受する権利)、結社の自由・団体交渉権、責任ある安全管理などが職場環境における人権リスクになります。これらに対し当社は以下の取組みを行っています。通報窓口については、内部通報制度の整備・運用の章をご覧ください。

・役員・従業員の人権意識向上

さまざまなステークホルダーの人権を考慮しつつ日々の業務に取り組む重要性の認識を深めるために、2017年度に人権に関する研修を全役員及び従業員を対象に実施し、2018年度以降は新入社員と中途社員を対象に毎年実施しています。具体的には、さまざまなステークホルダーの人権を考慮しつつ日々の業務に取り組む重要性の認識を深めるために、毎年当社の主に新入社員や中途社員を対象に人権研修を施しています。研修では誠実さ、尊敬、公正さをもって他者に接することの重要性を求めており、人権の尊重は各人事研修でも強調されています。

・労働環境の整備

当社は健全な労働環境づくりに努めることを「行動規範」で定めており、労働時間や賃金の面からもこれを遵守しています。標準労働時間については、国内外の全拠点において週48時間以下であること、時間外労働についても本人の合意の下で行われていることを確認しています。また、賃金についても、全ての従業員の賃金が各拠点の生活賃金を上回る基準で支給されています。こうした取り組みに加え、当社の従業員を対象にアンケート調査を毎年実施し、従業員へハラスメントといった人権侵害が行われていないか、適切な労働環境のモニタリングをしております。

・労使間の対話

INPEX 労働組合と締結している労働協約において、組合が労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を有することを定めており、労働問題(労働安全、労働環境、報酬、労働時間、研修・人材開発、ストレスマネジメント、均等な雇用機会、等)に加え、会社の抱える課題や将来の見通しなど様々な問題について労使で意見交換する場を定期的に設け、健全な労使関係の維持と発展に努めています。

INPEX労働組合は本部・支部体制であり、5つの主要な国内拠点において支部を設けていますが、その他の国内出向者や支部が無い拠点については、中央本部で一括管理と対応を行なっています。中央本部及び支部毎における労使間のコミュニケーションや対話については、年2回開催される中央労使協議会や五支部労使協議会などを通じて、密に行っています。また、海外駐在員との連携については、組合役員が年1回の頻度で海外拠点に直接伺い、現地での労働・生活実態調査を行う他、訪問が出来なかった地域からは実態調査を書面で聴取し、海外拠点における実態や駐在員からの要望などを会社側(本社人事U・海外事務所)と共有することで、問題の解決と改善に努めています。

なお、従業員に著しい影響を与える業務変更の際には、事前に適切な通知期間を設けるよう配慮しており、2008年の労働組合結成後、これまで苦情処理対応は発生していません。

社外のステークホルダー(地域社会とサプライヤー)

・苦情処理メカニズムの設置

当社は国内外の全ての拠点において、人権についても全てのステークホルダーからの問い合わせや苦情・通報に真摯に対応しています。地域住民やサプライヤーを含む社外のステークホルダーからの御意見については、当社ウェブサイトに問い合わせ窓口を設置し、各拠点では対面の受付や電話、手紙、ウェブによる問い合わせにも適時適切に対応しています。

2023年には、日本、インドネシア及びオーストラリアにおいて、人権に関する苦情の受け付けはありませんでした。

問い合わせの詳細については地域社会の章をご覧ください。

サプライチェーン

調達慣行の徹底では、結社の自由、団体交渉、強制労働、児童労働、職場における差別、労働条件(安全衛生、賃金、労働時間、水へのアクセスなど)、地域社会への影響、労働者の権利等の人権リスクが考えられます。

それに対する取組みとして英国現代奴隷法・豪州現代奴隷法に基づいたステートメントを毎年公表、サプライヤー行動規範やガイドラインの制定、取引先に対してのESGに関する勉強会を実施しております。

2023年にはサプライヤーの選定プロセスの一環として、現代奴隷のリスクアセスメント自己評価を導入し、人権の尊重を含む「サプライヤー行動規範ガイドライン」を策定し、サプライヤーフォーラムで説明を行いました。

詳しくはサプライチェーンマネジメントをご覧ください。

地域コミュニティ

先住民族・地域住民の権利として水や土地へのアクセス、生計、雇用、社会的弱者、文化遺産の保護などへの影響が含まれますが、当社は地域コミュニティへ影響を与えないために、プロジェクトが地域コミュニティに与える環境・社会影響評価や、苦情窓口の設置を行っています。

・地域コミュニティにおける人権影響評価の実施

インドネシアのアバディLNGプロジェクトでは、現在実施中の環境・社会影響評価において、国際的な環境社会ガイドラインであるIFC Performance Standardsの人権に関する要求事項についても以下のプロセスで検討・評価しています。

工程

人権に関する取組み

評価項目の選定

  • 社会的弱者(女性、子ども、貧困層、高齢者、及び障碍者)への影響を評価項目に選定
  • 現地住民の伝統的慣習法に基づいた生活様式(文化、慣習、生計手段など)、神聖なサイト、文化遺産などへの影響を評価項目に選定
  • 上記項目に関する既存データを収集・分析

現況調査

  • FGD (Focus Group Discussion)、Household Survey、及びKII (Key Informant Interview)を実施し、被影響コミュニティの社会的弱者、及び伝統的慣習法に基づいた生活様式(文化、慣習、生計手段など)、神聖なサイト、文化遺産、及び土地権利の現状を把握

影響評価

  • 建設時、及び操業時における社会的弱者、伝統的慣習法に基づいた生活様式の現地住民への影響評価を実施

環境管理計画・モニタリング計画策定

  • 上記の影響評価の結果も踏まえ、環境管理計画・モニタリング計画を策定。

VPSHR(安全と人権に関する自主原則)の要求事項を含め、人権を含めた社会関係リスクについては、社内規程に則り確認・管理しています。

また、ステークホルダーとの対話を通じ、「Social Investment Strategy 2021-2023」を策定し、5分野(①地元の経済力強化、②教育、③公衆衛生、④環境、⑤戦略的社会貢献)に重点を置いて、さまざまな取組みを計画・実行しています。このうち、公衆衛生や清潔な水へのアクセスに関する主な活動は以下の通りです。

時期

人権に関する取組み

2020

  • 公衆トイレの普及支援、乳幼児の健康・栄養に関する講習を実施
  • 水害時の復旧支援や医療物資支援の供与など

2021

  • コミュニティに貯水槽と給水パイプラインを導入し、各世帯に飲料水を供給することを目的としたClean & Healthy Behavior Programを策定し、実行
  • 飲料水に係る設備の導入工事はCommunity based participation and involvementのコンセプトの下、コミュニティが主体

2022

  • 設備導入完了、その後の運営は地域コミュニティに移管

2023

  • 公衆衛生に関する啓蒙活動、乳幼児健康診断、補助食寄付を実施

その他、地域社会での2023年の具体的な取り組みは地域社会の章をご覧ください。

顕著な人権リスクの特定

現在までの人権デューディリジェンスで特定された顕著な人権リスクは以下のとおりです。

  • 児童労働
  • 強制労働
  • 文化遺産及び伝統文化への影響
  • 地域住民の権利侵害
  • 求人・雇用における差別
  • コミュニティに影響を与える環境汚染

人身売買、同一労働同一賃金など、その他の人権リスク分野についても、リスクの特定・評価プロセスを通じて検討しましたが、当社事業の特徴や地理的特性、既に実施されているリスクマネジメント等を踏まえ、当社の顕著な人権リスクとはみなされませんでした。

2023年には、再生可能エネルギー事業も調査の対象に含め人権リスクのデスクトップ調査の見直しを行いました。課題として特定されたものは以下の通りです。

考慮すべき人権問題

石油・天然ガス

再生可能エネルギー

  • 人権侵害への非加担・コンプライアンス・社会保障と公正な競争
  • 差別の禁止と法の下の平等
  • 調達慣行(取引先管理)の徹底
  • 強制労働
  • 労働安全衛生
  • 適切な労働環境(水へのアクセスを含む)
  • 賃金(十分な生活水準を享受する権利)
  • 結社の自由・団体交渉権
  • 先住民族・地域住民の権利
  • 責任ある安全管理
  • 人権侵害への非加担・コンプライアンス・社会保障と公正な競争
  • 調達慣行(取引先管理)の徹底
  • 児童労働
  • 強制労働
  • 労働安全衛生
  • 労働時間
  • 適切な労働環境(水へのアクセスを含む)
  • 賃金(十分な生活水準を享受する権利)
  • 結社の自由・団体交渉権
  • 先住民族・地域住民の権利
  • 責任ある安全管理

今後はアンケート調査の結果を基に、特定した人権課題のリスク評価を実施し、顕著な人権リスクであると評価されたものに対しては優先的に是正措置を講じていく予定です。