Sustainability Report 2023

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Sustainability Report 2023

生物多様性の保全

生物多様性保全は重要な地球環境課題の一つであるとの認識の下、当社の重要課題の一つに位置づけています。係る状況下、当社は、2022年12月に生物多様性保全に関する基本的な考え方とコミットメントを取締役会の決議により制定し、公表しました。

生物多様性保全に係る基本的な考え方及びコミットメント

基本的な考え方

当社事業における生物多様性の「リスクと機会」を特定し、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づく生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組みを積極的に推進していく。

 コミットメント

  1. 生物多様性に関する「リスクと機会」の特定
    • 当社事業における生物多様性の「リスクと機会」を特定し、持続可能な利用に向けた取組みを推進する。
    • 生物多様性保全活動に係る情報開示を推進する。
  2. 事業の実施除外エリアの設定
    • UNESCO世界自然遺産の区域内において、事業を実施しない。
  3. ネットポジティブアプローチの推進
    • 重要な生息地(Critical Habitat)1で実施される事業においては、ネットポジティブインパクトの創出を含む生物多様性に関する行動計画(BAP: Biodiversity Action Plan)を策定し、実行する。
  4. 生物多様性保全活動の促進
    • 新規事業においては、生物多様性への影響を特定し、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づき、影響の回避・低減策を策定し、実行する。
    • 既存事業による生物多様性への負の影響をできる限り低減し、生物多様性への正の影響を創出する取組みを促進する。

1 IFC Performance Standard 6で定義付けされている生物多様性の価値が高い地域

生物多様性に関する「リスクと機会」の特定

TNFD関連への取組み特設ページをご覧ください。

保護区への影響の回避、低減、補填

2022年12月に策定した「生物多様性保全に関する基本的な考え方及びコミットメント」では、事業の実施除外エリア(UNESCO世界自然遺産の区域内)において事業を実施しないことをコミットしています。2023年12月末時点で、当社オペレータープロジェクトは、当社の定める実施除外エリアに立地しないことを確認しています。

また、当社では、2019年度より、「保護地域に関する世界データベース(WDPA2)」の保護区情報やIUCN レッドリストカテゴリーに該当する動植物種の情報を地理情報システム(GIS)に取りまとめ、以下の目的のために、情報を毎年更新しています。

  • 保護区内における当社オペレータープロジェクトの操業の有無の確認
  • 新規プロジェクトにおける保護区への影響の初期スクリーニング
  • 既存プロジェクトにおける生物多様性保全活動の計画・立案

2 UNEP(国連環境計画)とIUCN(国際自然保護連合)が作成している保護区情報のデータベース

ネットポジティブアプローチの推進

WBCSDが2021年に公表した実務者向けガイダンス”WBCSD practitioner’s guide: what does nature-positive mean for business?”を活用し、当社の自然に関する取組みの現状把握と、今後必要なアクションの特定を実施しています。その結果、WBCSDのガイダンスに準じて、当社が特に対応できているポイントとしては、生物多様性や水に関するコミットメントの策定・開示、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づく生物多様性への影響の回避、低減、補填といった取組みであることが特定されました。今後は、バリューチェーンを考慮した自然関連の影響と依存を考慮し、ネットポジティブに寄与する取組みを実行していきます。

生物多様性保全活動の推進

事業活動による生物多様性への影響の種類や程度は、各事業の規模、内容、及び立地環境等により異なることから、事業ごとに求められる生物多様性保全の取組みも異なります。そのため、事業の実施にあたっては、当該エリアにおける生物多様性の重要性や事業が生物多様性に対し、もたらすリスクや影響を評価し、特に重要性が高い環境脆弱域(保護区、貴重種の重要な生息地、森林、マングローブ、サンゴ礁、湿地や干潟など)については、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づき、事業がもたらすリスク・影響の回避、低減、補填を計画し、生物多様性保全に取組んでいます。

当社の国内事業及び海外事業では、長年にわたり、生物多様性保全に資する活動を実施していますが、今後は、2022年12月に策定・公表した生物多様性保全に関する基本的な考え方とコミットメントに基づき、全社的な生物多様性保全活動をより一層推進していきます。

海外における生物多様性保全の取組み

イクシスLNGプロジェクトが立地するダーウィン湾の沿岸部には、マングローブ林が形成されており、魚類の繁殖エリアやウミガメの採餌エリアとなっています。この豊かな生物多様性を保全するため、ダーウィン湾における排水水質、海水 水質、マングローブの生育状況、自然植生などの包括的なモニタリングを操業開始後も継続して実施しています。また、北部準州によるジュゴンの生息調査に資金援助するなど、事業周辺の生物多様性保全に貢献する取組みを実施しています。

Cardno 社によるレポート(98ページを参照)

インドネシアのアバディLNGプロジェクトでは、環境社会影響評価制度(AMDAL)の一環として、2021年には、衛星画像解析を用いて、プロジェクトサイト周辺海域におけるサンゴ礁の分布状況を調査しました。また、2023年11月には、プロジェクトサイト前面海域においてダイビングによるサンゴ礁調査を実施しました。これらの調査結果を用いた影響評価を実施しており、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づきサンゴ礁への影響低減策を今後策定・実行する予定です。

ダーウィン湾周辺の環境モニタリングプログラムのマングローブ
インドネシアのサンゴ礁

PTTEP – PETRONASとの生物多様性に関する合同ワークショップの開催

2023年10月にバンコクのPTTEP本社にて、タイのPTTEP社、マレーシアのPETRONAS社、及び当社の3社による生物多様性及び生態系サービスに関する合同ワークショップが開催されました。このワークショップには、3社の環境専門家、及びサステナビリティ専門家の他に、タイ国環境省、大学教授、コンサルティング会社等、約100名が参加しました。

このワークショップにおいて、当社からは2023年度に当社の国内事業において実施したTNFDのLEAPアプローチに基づくトライアル評価の結果を発表すると共に、本トライアルで特定された課題等を共有したところ、参加者から多くの質問やコメントがあり、参加者間での建設的な議論の呼び水となりました。

アブダビ陸上探鉱鉱区(Onshore Block 4 Project) における鳥類調査

JODCO Exploration Limited (JEL)は、2019年度より、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビの探鉱鉱区Onshore Block 4を取得し、探鉱事業に参画しています。JELは、2021年から2022年にかけて、Balghelam島及びUmm Al Barak 島(アブダビの北東約20kmに位置)において掘削作業を実施していますが、当該エリアは、多くの渡り鳥が飛来する場所として知られていました。その為、JELは、プロジェクト実施前に当該島に飛来する鳥類の現況を把握し、影響を受ける鳥類に対する影響緩和策を検討することを目的に、社外専門家を起用し鳥類調査を実施しました。本調査では、飛来する鳥類の種類、個体数、行動(就塒、給餌、繁殖)についてエリアごとに記録され、島内における鳥類の生態に関する現況がまとめられています。プロジェクト実施時には、本調査結果を踏まえ、鳥類の影響に配慮したプロジェクト関連施設の位置・配置の検討、事業要員や車両の立ち入り区域の制限など(アクセスロードから離れた場所や鳥の就塒場所への行動制限)の対策を実施。現在はプロジェクト実施後の影響評価及び今後の開発へ向けたベースラインデータ取得の位置づけで、年に複数回のモニタリング調査を継続しています。

アブダビ陸上探鉱鉱区の鳥類調査①
アブダビ陸上探鉱鉱区の鳥類調査②

国内における生物多様性保全の取組み

国内事業場周辺における環境に関する地域特性の把握

国内事業では、事業場周辺の環境に関する地域特性(河川、漁場・養殖場、森林、自然環境保全地域、文化財、天然記念物・絶滅危惧種の生息地など)の把握を目的とした机上調査を2021年度に実施し、調査結果を地理情報システム(GIS)を用いて取り纏めました。これにより、事業場周辺の生態系の把握だけでなく、新規事業の計画段階において、サイト周辺の環境脆弱域の把握にも活用しています。

国内での生物多様性保全活動(「キツネ平どんぐりの森」での取組み)

長岡鉱場に隣接する新潟県長岡市不動沢では、2010年度から新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環で「キツネ平どんぐりの森プロジェクト」を展開しています。2019年度からは、この森づくり活動に加え、キツネ平どんぐりの森における生物多様性調査を実施し、森を利用し、生息している種について調査しています。2019年度、2022年度の調査の結果、カモシカやキツネ等の多様な生物が確認されています。

当社では、今後もキツネ平どんぐりの森における生物多様性保全活動を継続する予定であり、2024年度には、従来の調査方法に加え、環境DNA分析を利用した追加的な調査も予定しています。

「キツネ平どんぐりの森」における森づくり活動
  • 2010年度より、新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環で「キツネ平どんぐりの森プロジェクト」を展開。
  • 2019年度には、これまでの森づくり活動に加えて、トライアルとして秋季に生物多様性調査を実施。
  • 2019年秋季調査で一定の成果が得られたことから、2022年度には、通年調査を実施。
  • 2023年度には、森づくり活動参加者に対し、生物多様性調査結果について報告会を実施。

森づくり活動

年に2回(春季・秋季)、地域住民の方々と一緒に森林整備、植樹活動、子ども向けの自然観察会を開催しています。(2020年以降新型コロナ感染症の影響で活動を休止しています。)

2019年生物多様性調査(秋季調査)

2019年秋季(10月~11月)に、どんぐりの森における生物多様性を把握するための簡易調査を実施しました。本調査では、どんぐりの森にセンサーカメラ計6台を設置し、どんぐりの森に生息する生物を撮影しました。本調査の結果、カモシカを含む哺乳類が数種類観察され、また敷地内及びその周辺において鳥類も複数種類観察されました。

キツネ平どんぐりの森の植樹の様子
どんぐりの森におけるセンサーカメラ

2022年生物多様性調査

2019年に実施した秋季調査の結果を踏まえ、どんぐりの森の生物多様性の現況をより詳細に把握することを目的とした調査を実施しました。本調査は、2022年5月~2022年12月の約8か月間、どんぐりの森にセンサーカメラ計8台を設置し、森に生息する生物を撮影しました。また、現地調査に加えて、文献調査も実施しました。

本調査の結果、鳥類ではサシバ、哺乳類ではキツネといった生態系の上位種の生息が確認されました。また、1年を通して、どんぐりの森を多様な生物が継続して利用していることが分かりました。これは短期間で造成した環境、森林や草地だけの単一的な環境では得られない結果であり、2010年度から13年間の森づくり活動により、継続して環境の手入れを行った結果、種の多様性及び生態系の多様性が向上したと解釈することができます。また、調査で得られた結果などは、2023年に森づくり活動参加者へ共有しました。今後も地域住民の方々と共に活動を継続し、どんぐりの森の生物多様性の維持・向上に努めていきます。

ニホンカモシカ
キツネ
サシバ
カワラヒラ