Sustainability Report 2023

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Sustainability Report 2023

特集記事 2:デジタリゼーション

デジタル技術の進展は、新規事業の開拓と業務効率化を通じたコスト削減の大きな機会をもたらしますが、サイバーセキュリティのリスクや市場の競争の激化といった脅威も存在します。これらの技術的変化に適応し、成長を続けるためには、投資とイノベーションが不可欠です。加えて、AIのような先進技術の導入がもたらす社会的、倫理的な問題も重要な考慮事項です。これらの要素を総合的に把握し、戦略的に対応することが、デジタル化時代における企業の持続可能な成長につながります。

私たちINPEXは、経営ビジョンである長期戦略と中期経営計画(INPEX Vision @2022)に基づくビジネスモデルを実現に寄与するDXビジョン・DX戦略を策定し、役員が集合する連絡会にて、IT/DXに関する報告を実施しています。2023年はモバイル活用、ペーパーレス経理伝票、生成AI・技術AI活用、Power Platform活用、新規システム導入、DX省人化・無人化、サイバーセキュリティなど、月1回程のペースで説明を実施しました。

事業においてデジタル技術を最大限に活用し、デジタルエネルギー会社としての基礎を確立し、新たな技術開発や業務プロセスの革新につながることを目指しています。

デジタル化がもたらすリスクと対応

デジタル技術は、以前から石油・ガス業界に幅広く活用され、当社の事業もその恩恵にあずかってきましたが、近年は最先端のデジタル技術により、さらに高度で高速な処理が可能になり、多様かつ大量のデータを活用した取組ができるようになっています。INPEXは日本及び世界のエネルギー需要に応えつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでいますが、AIを中心とした新規デジタル技術の活用はそうした取り組みの重要な柱と位置づけています。

昨今の生成AIの利活用が進むにつれディープフェイクによるデマ情報や風説の流布による株価操作、プロンプトインジェクション等による個人情報や機密情報の漏洩など様々なリスクの可能性が高まります。その対策として、社内でAIに関する協議会やAdvisory Groupを発足しており、その中で生成AIに関するガバナンスを議論しルール化するような形を取っています。

DX戦略

当社は、中期経営計画・技術戦略に基づき、操業をデジタル化することにより、石油・天然ガス分野の強靭化・クリーン化に貢献し、生産性向上や省力化を実現することを目指しています。

また基盤整備に向けた取り組みの中で、デジタルデータ基盤を整備し、デジタル技術の活用を加速させることで、効率化を図り、新たな価値創造を実現する方針を立てています。

デジタル技術のリスキリング

当社では社員向けのデータサイエンス・プログラミング技術を持つ人材を増やすことで企業の競争力を強化することを目指すべく、Digital Academyを開設しており、主にDX案件を企画・推進する人材、高度データ活用・管理・分析をする人材についての育成を目的に、複数のデジタル関連教育を実施しています。このコースで習得した知識は、データ分析・管理能力を高めるために応用することができ、2023年は全社員のデジタルスキル向上のためのDXリテラシー講座を実施し、幅広い職群から約350人の参加がありました。こうした取り組みにより、次のような成果と長期的な組織への貢献を期待しています。

データ活用

当社では、経営目標データ(当期純利益、探鉱前営業キャッシュフロー、ROE等)や事業目標データ(生産量・温室効果ガス原単位等)についてデータを収集し、データベースに蓄積、それを見たい階層/レベルでBIレポートとして可視化出来るようにしており、そのデータ分析に基づいて経営を行っています。

特に温室効果ガスの排出量管理に関しては、従来より環境・保安に必要な環境情報を総合的に当社現場から収集、管理、活用するシステムを導入し、加えて排出量の予測についても年度毎だけでなく中長期の予測に関してもデータベースにて管理し、経営指標として重要視しています。

操業デジタル化

操業のデジタル化においては、個別のデジタル技術やツールの検討ではなく、全体的及び複合的にデジタル技術を適用した結果、操業に関わる業務時間削減、安全性向上、温室効果ガス削減のすべてに貢献しました。具体的には下記の3つの取組を実施しています。

  • 統合オペレーションセンター:複数プラントの統合監視及びリモート監視を実施し、コラボレーションセンターやAIによる操業支援等の機能も装備
  • スマートファシリティ:ガス坑井に設置したIoTセンサとLPWA(Low Power Wide Area)無線と活用したセンターとの情報連携及び防爆モバイル活用や電子作業許可等による現場業務の自動化レベル向上、そして防爆型巡回点検ロボット活用検討
  • プラントデジタル基盤:ガス坑井、プラントのデータをリアルタイムに繋げるクラウド上の操業系デジタル基盤の整備

本パイロットにおいてのソリューションを全プラントに展開した際の想定削減可能時間は、対象業務の全体工数の25%以上を削減するものとなっています。

https://www.youtube.com/watch?v=cdhSaKWObyk

ケーススタディ:
オーストラリアにおけるデジタル化

当社イクシスプロジェクトの生産・操業で活用されているスケジューリング及び計画最適化ツール(SPOT)は、メンテナンス作業管理データを有効活用することで、オペレーションリスクの低減を考慮しながらメンテナンス計画を最適化するツールです。SPOTはデータサイエンスとデータ分析の手法を適用し、作業管理プロセスと人員、必要機器の納入時期、施設内の現在の制約等を考慮しながら、最適化された施設のメンテナンス計画をほぼ自動で立案します。

AI・機械学習の活用

生成AIの活用

当社では、2023年から”AIR1”というコンセプトを立ち上げ、社内での生成AIの活用を推進しています。対話型AIについては、マイクロソフト社のAzure Open AIを利用することで、情報漏洩のリスクが少ないセキュアな環境でChatGPTやCopilotを利用できる環境を整備し実装することで、文書の生成、要約、検索等で生成AIの社内利用が広がっております。加えてチャットボットに生成AIを搭載した情報検索ツールを導入し、さらに従業員が生成AIに触れる環境を提供し、社内情報の検索性を高め、業務効率化を図っています。

1 「AIが空気のように、自然にある職場へ(Where AI naturally belongs in the workplace, like the air we breathe.)」というコンセプトの元、生成AIの社内活用を促進する活動。

グローバルな事業に対応するセキュアな翻訳環境

当社の事業はグローバルに展開されており、英語、日本語に加えて、ロシア語、インドネシア語等、事業環境にあわせた情報の収集や分析が必要となるケースがあります。一方で、一般に利用されている無料版の文書翻訳サービスは入力内容が各サービスの精度向上のために利用される可能性があり、情報漏洩のリスクが存在します。当社では、無料で提供されている翻訳サービス内での社外秘情報の利用は禁止しており、情報セキュリティを担保しつつ業務の効率化を実現可能な多言語翻訳のシステムを導入し、当社の多様な人材があらゆる現地語に対応した情報へとアクセスできるようなツールを提供しています。

深層学習を利用した電子顕微鏡画像による石岩組織の解析

セマンティック・セグメンテーションを用いた深層学習技術は、画像の全ての画素に対してラベル付けやカテゴリ区分を行うことができ、貯留岩評価において有望な手法です。これを岩石の顕微鏡画像解析に利用することで、マイクロメートル単位の岩石構造・組織の観察が可能になり、貯留岩の性状を徐々に失っていく過程を理解する上で重要な情報源となります。

当社では、大量の画像データと解釈結果を用いてAIモデルの構築・更新を行い、砂岩貯留層評価の作業効率を大きく改善しました。また、この技術は貯留岩の性状変化を数値モデルで表現することで、坑井のないエリアでの孔隙予測や、CCUSへの応用や探鉱活動のプロスペクト評価など、さまざまな分野で重要度が増していくと考えられます。

外部イニシアティブへの参加

DX認定制度は、デジタル技術による社会変革に対して経営者に求められる事項を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」に対応し、DX推進の準備が整っていると認められた事業者を国が認定する制度です。当社はサステナブルな経営にDXは必要な要素ととらえ、操業をデジタル化することにより、石油・天然ガス分野の強靭化・クリーン化に貢献し、生産性向上や省力化によるCO2排出の削減などを推進します。